しかし、日本胃癌学会では、INT-0116試験の結果を日本の標準治療として受け入れることはできないとしている。その理由がリンパ節郭清範囲だ。INT-0116試験ではD0郭清(不完全な郭清のみ)が54%、D1郭清(1群リンパ節のみ)が36%で、日本で標準的なD2郭清はほとんど行われていない。再発形式をみても、化学放射線療法の効果は局所再発のみであり、遠隔転移の抑制には寄与していない。つまり、局所コントロールが不十分な部分を化学放射線療法で補うという形となっているわけだ。

 2010年のNCCNのガイドラインでは、術後補助療法として化学放射線療法と5-FU+シスプラチン+エピルビシンを推奨している。しかし、日本の「胃癌治療ガイドライン」(2004年)では「延命効果を指標として手術単独群を対象とした大規模臨床試験を早急に行うべきで、術後補助化学療法を日常診療とすることはできない」と書かれている。

 日本で行われた術後補助化学療法の臨床試験は細かい設定がなされている。JCOG8801試験では、漿膜浸潤陰性の胃癌に対し、手術単独群と術後に5-FU+テガフール・ウラシル配合剤(UFT)+マイトマイシンCによる化学療法を行う群を比較した。生存期間は化学療法群がやや上回ったが、サンプルサイズなどの問題から有意差は得られなかった。しかしサブ解析で、T2でリンパ節転移がある場合に有意差が得られる可能性が示唆された(下表)。

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 JCOG8801試験の結果を受けて開始されたNational Surgical Adjuvant Study of Gastric Cancer(NSAS-GC試験)では、T2で N1またはN2のステージIIとIIIAの胃癌を対象とした手術単独群と術後にUFTを投与する群の比較で、UFTの有効性が示された。

 さらに漿膜浸潤陰性の胃癌に対し、JCOG9206-1試験では、手術単独群と術後にまず5-FU+シタラビン+マイトマイシンC、その後経口薬の5-FUによる化学療法を行う群を比較した。無再発生存期間、全生存期間ともに有意差が得られず、ネガティブなデータと解釈された。

 漿膜浸潤陽性の胃癌に対してはJCOG9206-02試験で、手術単独群とシスプラチンの腹腔内投与および5-FU+シスプラチンの静脈内投与に加え、UFTを投与する群を比較した。両群に全く差はなく、漿膜浸潤陽性の進行胃癌に対して、使いなれた古い薬剤による術後補助化学療法ではあまり効果が期待できないと結論された。

 TS-1が日本のステージII、IIIの胃癌の術後補助化学療法の標準治療となったのは、2007年に発表されたAdjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric Cancer(ACTS-GC試験)の結果からである。この試験では集積終了後1年目の中間解析でTS-1の優位性が明確となり、効果・安全性判定委員会の中止勧告により試験は中断された。その後の追跡調査で、手術単独群とTS-1による術後補助化学療法を行う群の3年生存率に10%の差が得られた(下図)。

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 ただし、ステージIIでは両群の差が大きいが、IIIBでは差が小さく、より進行した癌ではTS-1だけでは不十分な可能性もある。そのため、術前補助化学療法やより強力な術後補助化学療法に関する試験が進行中である。

 胃癌領域では、分子標的薬のトラスツズマブやエベロリムスなどを用いる試験や、標準的なレジメンがまだ確立されていないセカンドライン治療についての試験も進んでいる。日本では、手術の適応に関しては標準化されたと考えられるため、さらなる成績向上を目指すための化学療法の標準化が待たれる。