京都大学原子炉実験所とステラケミファらは9月6日、再発悪性神経膠腫患者を対象にホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)のフェーズ1試験を開始することを発表した。治療は、京都大学原子炉実験所で行い、最大18例の患者を対象とする予定。5年後の承認申請を目指している。

 BNCTは、粒子線治療の一種で、ホウ素化合物を取り込んだ癌細胞を選択的に破壊する治療法。フッ素を中心とした高純度薬品の製造販売を行うステラケミファと子会社のステラファーマ、住友重機械工業、京都大学原子炉実験所が共同で開発した。ホウ素同位体濃縮技術をもとに開発したBCNT用ホウ素薬剤と、BNCT用加速器を用いる。

 一般に腫瘍細胞は、点滴投与したホウ素化合物10Bを正常細胞に比べて高濃度に取り込む性質を持つ(悪性神経膠腫では約3.5倍)。そこに、医療用小型加速器から低速(熱)中性子線を照射すると、ホウ素の核分裂が起き、α粒子とリチウム原子核が放出される。放出されたα粒子線とリチウム原子核は細胞1個分のみの飛距離を持つため(5〜9μm)、周辺の正常細胞を傷つけることなく、ホウ素化合物を取り込んだ癌細胞のみを選択的に破壊することが可能だ。

 今回開始する治験は、単施設オープンラベルのフェーズ1試験で、WHOグレード3、4の再発悪性神経膠腫患者(最大18例)を対象に、安全性と忍容性を検討する。照射線量は漸増し、低線量(最低5.5Gy)、中線量、高線量(最大8.5Gy)それぞれ3〜6例ずつ検討する。

 治療は、京都大学原子炉実験所で行う。治療時間は1時間ほどで、BNCT用ホウ素薬剤を点滴しながら、熱中性子を照射する。90日間の経過観察を行う予定だ。

 京都大学原子炉実験所粒子線腫瘍学センター・センター長教授の小野公二氏は、再発膠芽腫を対象にしたBNCTによる治療について、「これまでのデータでは、治療48時間後に腫瘍が縮小するという、X線治療では経験できないような超早期の腫瘍縮小効果を確認できている」と振り返った。同技術の適応者については、「腫瘍細胞に対する治療効果が大きいのに対し、正常細胞への影響は少ないので、X線治療抵抗性の、広がりの大きい悪性腫瘍に有効であると思われる」と語った。

 ステラファーマ代表取締役社長の浅野智之氏は、「未承認の薬剤と、未承認の医薬機器を組み合わせた、日本では珍しい、ハードルの高い治験になる。日本から世界初の治療法を発信していきたい」としている。また脳腫瘍以外に、頭頸部癌にも同治療法が有効である可能性が報告されていることから、今後、頭頸部癌を対象にした治験も視野に入れている。

 同研究は、平成20年度JST(科学技術振興機構)独創的シーズ展開事業委託開発、平成20年度の先端医療開発特区の開発テーマにも採択されている。