若いがん患者の子どもたちへのケアについて、医師や看護師の意識調査を行ったところ、多くの医療者が子どもへの心理的なケアをすべきだと感じつつも実際にはほとんど実施できていない現状が明らかになった。2011年2月11日に聖路加国際病院(東京都中央区)で開催された「小児がん患者・家族および子育て世代のがん患者・家族への支援を考える」をテーマとした公開シンポジウム(主催:厚生労働省科学研究費補助金がん臨床研究事業、研究代表者 真部淳)で、九州がんセンター乳腺科医長の大野真司氏が発表した。

会場となったのは、聖路加看護大学のアリス.C.セントジョンメモリアルホール。多くの患者とその家族が参加し、発表に真剣に耳を傾けた。

 大野氏は、2010年10〜11月に日本乳癌学会専門医と乳がん看護認定看護師に対し、自己記入式アンケート調査用紙を郵送し、がんを持つ親の子どもへの介入(心理的支援)の現状を調べた。医師316人、看護師67人から回答を得た(回収率はそれぞれ35.2%、49.6%)。

 「子どもへの介入(心理的支援)について、どのように考えているか?」という質問に対しては、「介入すべき」15%、「できるだけ介入すべき」55%、「できるだけ介入しない」23%、「介入すべきでない」7%と、介入することに肯定的な意見が7割を占めた。

 しかし、実際に介入したかについては、「必ず介入している」1%、「できるだけ介入している」14%、「ほとんど介入していない」43%、「全く介入していない」43%であり、9割近くで介入できていないことが分かった。介入は親との面談やリーフレットなどによって行われることが多かった。

 介入しない理由には、「施設の体制が不十分」「やり方がわからない」「家族のプライベートの問題であるから」――などが挙がった。

 介入してよかった経験としては、「子どもにどうしても伝えられずに苦しんでいる患者に、伝え方を紹介したリーフレットや絵本を紹介したら、夫と一緒にそれを使って伝えることができ心が楽になったと患者から言われた」「子どもにどうやって伝えるか悩み落ち込んでいた患者に病棟スタッフが気付き、患者の思いを聴いた。子どもに伝えた後、患者が様々なことに前向きに取り組めるようになった」――などの意見があった。

 一方、介入がうまくいかなかった経験としては、「再発し、化学療法の効果も得られない状況の中で、『子どもに心配させたくないから』と話されたときに、その気持ちに共感的に関わることしかできなかった。本人にも子どもにも負担が大きいと考えフォロー体制も十分出ない状況のまま立ち止まってしまっている」「子ども(小学校2年)への説明は不要と患者とその夫が判断し、両親が子どもへの情報提供を行わなかったが、後に退行現象(指かみ、おねしょ)が出現し、数日登校できなかったことがあった。患者または夫の価値観による判断がある場合、介入は難しい」――などの意見があった。

 医療者が介入することについては、「家族背景の把握などにはかなりの労力や時間を要し、また中途半端な介入・支援はかえって子どもたちや本人を傷つける恐れがあり現状では踏み切れない」「現在の医療体制では不可能で、この領域を担う人材の育成が必要と思われる」「失敗したときの問題、医療ソーシャルワーカーや臨床心理士が整備されていない状態で行うのはリスクが大きい」「医療者側のスタッフ・専門家不足で行政側の支援も必要」「医師個人の対応では限界があり、システム作りが必要」――などの意見があった。

課題はチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の育成と雇用

 こうした子どもへのケアにおいては、北米ではチャイルド・ライフ・スペシャリストCLS)という専門職が活躍している。シンポジウムでは、聖路加国際病院のCLSの三浦絵莉子氏が、CLSの役割や現状などを紹介した。

 チャイルド・ライフとは、医療環境でストレスや不安を抱える子どもと家族を支援する活動。その活動はチャイルド・ライフ・プログラムと呼ばれており、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)という専門資格を得た人により実施されている。北米では、小児病棟以外にも歯医者さんやリハビリ施設、虐待児救護施設、精神病棟で活躍しているという。

 成人医療におけるCLSの役割としては、子どもとの面談や面会時などで遊びの援助、子供の関することでの相談相手、患者へのエンパワメント、患者とその家族の心理的準備や環境作り、情報収集などをサポートするなど。こうした活動を通して、困難な状況にある親子がその状況を少しでも主体的に乗り越えるための手伝いをする。

 現在、日本では20人程度のCLSがいるが、そのほとんどが小児科の病気の子どものサポートを中心に活動しており、成人病棟で大人の患者さんの子どもたちのケアを重点的に行っているCLSは少ない。大野氏が行ったアンケート調査でも明らかになったように、医師や看護師だけでは十分な対応が難しい中、今後はこうした専門職を育成や雇用が進むことが期待されている。