我が国の大腸癌の治療ガイドライン(最新版)では、5種類の治療法がファーストライン(一次治療)として併記されている。しかし、実際にガイドラインを参考にして患者さんの治療方針を決めようという医師は、5種の治療法をどう選択してよいか困惑してしまうだろう。ガイドラインの性格上、一次医療として十分なエビデンスを併記することは止むを得ない。しかし、実際の臨床には情報のギャップが生じてしまう。これを解消しようとして、今回のコンセンサスエンジン消化器がんの討議が企画された。

 9月26日午後8時から実に2時間半以上、時間を延長して議論は白熱化した。今回の討議の議長は、埼玉県立がんセンター消化器内科副部長の山口研成氏が務め、全国から大阪大学消化器外科助教の池田正孝氏、国立病院機構別府医療センター消化器外科医長 沖英次氏、箕面市立病院外科部長 加藤健志氏、癌研有明病院化学療法科兼消化器センター消化器内科化学療法担当医員 篠崎英司氏、自治医科大学臨床腫瘍科講師長 瀬通隆氏、栃木県立がんセンター腫瘍内科・化学療法部副部長 浜本康夫氏、愛知県がんセンター中央病院薬物療法部長 室圭氏、静岡がんセンター消化器内科医長 山崎健太郎氏、国立がん研究センター東病院消化管内科医長 吉野孝之氏など、11人の専門医が空間を超えて参加した。

 2時間の討議の結果得られたコンセンサスは以下の通り。

 「大腸がん治療ガイドラインの功罪(2)」 (2010年9月26日、現在)

1. 現時点では、分子標的が不要な患者が確定していないために、基本的には分子標的治療薬は併用するべきである。

2. 一次治療のコンセンサス
 今回のコンセンサスの討議に参加した大部分の医師は、一次治療はベバシズマブと化学療法の併用を選択していた。

 ただし、ベバシズマブの禁忌として、以下の諸点が考慮されるべきである。

 原発巣の高度狭窄例、イレウス〜サブイレウスや大量腹水などの高度腹膜播種症例、スプーン一杯以上の喀血の既往(多くは非小細胞肺がん)、外科手術から28日以内とされる。 慎重投与患者は、6-12ヶ月以内の動脈塞栓・血栓症の既往(特に65歳以上の高齢者)と脳転移患者。消化管穿孔時に緊急手術ができない症例(それだけ具合が悪い、医療施設の問題など)。

 また、患者の環境要因として以下の環境の患者には投与を控えるべきであるという意見があった。
〃谿気鮗己測定しない患者
∋抻療法を理解できない患者
9睥陝独居、家族などの支援が期待できない患者

3. ガイドラインにあるFL/Bv治療の適応に際しては 意見の分かれるところである。切除不能、腫瘍の進展がゆっくりと判断される、現在の腫瘍量の少ない患者などは逐次投与も、選択の一つと考えられる。

 化学療法の休薬期間をおくことに関しては、未だ一定したコンセンサスが形成されておらず、臨床への導入は慎重にすべきである。一方、抗腫瘍効果と副作用のバランスを見ながらメンテナンス療法(FOLFOX→FL)は推奨される。                                           

以上


コンセンサスエンジン消化器がんとは

 氾濫する医療情報をどう整理し、臨床に役立つインテリジェンスに転換するか?

 今、多くの医師が悩んでいるのは、情報の確保ではなく、正しい、そして信頼に足る情報をどうやって選別するかである。2010年7月にオープンしたサイト「コンセンサスエンジン消化器がん」( https://bioce.nikkeibp.co.jp/consensusengine/)は、こうした悩める医師の情報ニーズに応える新しいメディアだ。現在は、消化器がんの標準治療を我が国に普及させるために、年10回程度、治療や診断の最新コンセンサスや海外の学会の最新報告を報道している。日経メディカルオンラインにご登録いただいた医師限定で、情報発信中だ。

 コンセンサスエンジンの実態は、ウェブ上でのバーチャル討議である。年10回程度、休日や平日の午後8時から2時間、濃密なウェブ討議を行う。実際には、選りすぐりの若手・中堅専門医20数人以上を登録、多忙な業務を縫って参加可能な10数人が議長によって提起されたタイムリーなテーマを討議する。10数人の専門医の臨床経験や科学的な研究を基に、情報は立体的に検討され、医療行為や処方行為につながるインテリジェンスに純化される。最終的には専門医の周知を集め、討議の時点での治療方針に対するコンセンサスが形成される。テーマによっては、医療専門の弁護士や別の領域の専門医も討議に参加し、議論を深める。

 コンセンサスエンジンは無数にある医療情報を専門医がとことん煮詰め、現時点での最新、最良のコンセンサスを作り出す仕組みである。時には、専門医の間で意見が割れ、必ずしも合意に至らない場合もある。コンセンサスエンジンでは、こうした合意が形成されなかった場合でも、合意できなかったと明示し、その背景も分かりやすく示すことを心がけている。少なくとも10数人の信頼に足る専門医が今、どう考えているかを的確に伝え、医師が治療方針を決定する際の羅針盤となることを目指している。多忙な医師のため、コンセンサスは簡潔にまとめられる。しかし、その裏づけとなったウェブ討議も議事録として公開している。毎回、A4版で60ページ以上の濃密な討議を是非ともご覧いただきたい。

 現在、多数の臨床試験が実施され、国際学会や学術雑誌には科学的に裏付けられたエビデンスが続々と発表され、エビデンスに基づいた医療の必要性が叫ばれている。しかし、病院や診療所で患者を診る時に、こうした科学的エビデンスだけで、治療方針は決まらない。科学的エビデンスと実際の診療や治療の情報ギャップを埋める臨床医の意見や経験が必要である。専門医群の知恵と経験で形成したコンセンサスこそが、実際の臨床では力を発揮する。エビデンスベースドメディシンからコンセンサスベースドメディシンへ、世界は急速に移行しつつある。コンセンサスエンジンは、エビデンスと臨床の情報ギャップを埋める新メディアなのである。

 例えば、今回、癌Expertsにコンセンサスを掲載した、コンセンサスエンジン消化器がん 大腸がん治療ガイドラインの功罪2 一次治療の問題点(2010年9月26日午後8時から午後10時)では、まさにそのギャップが討議された。
 
 白熱のウェブ討議の詳細は以下のコンセンサスエンジン消化器がんのサイトで、閲覧可能だ。何故、このようなコンセンサスがまとめられたのか、どうぞ下記のサイトから議事録をダウンロードしてご覧いただきたい。

○コンセンサスエンジン消化器がん ホームページ
https://bioce.nikkeibp.co.jp/consensusengine/


 通常は、コンセンサス公開後、2週間で質問の受け付けは終了するが、今回は1月15日から2週間、皆さんからのご質問をコンセンサスエンジンのサイトで受け付ける。どうぞ忌憚無いご意見や質問をお寄せいただきたい。


                             日経BP社医療局主任編集委員
                             コンセンサスエンジン編集担当  宮田 満

注記)コンセンサスエンジン消化器がんのサイトを閲覧していただくためには、日経メディカルオンラインに医師として登録していただいた上で、コンセンサスエンジン消化器がんのサイト閲覧およびメールマガジンの登録をしていただく必要があります。コンセンサスエンジンの登録画面は下のURLです。

https://webauth.nikkeibp.co.jp/pps/Ctrl?action=regmail&serviceid=bio_ce2&groupid=biotech