英Nottingham大学病院Queen's Medical CenterのDes Powe氏らは、独Witten大学のFrank Entschladen氏らと共同で、乳癌女性を対象とする疫学的研究を行い、高血圧の治療を目的としてβ遮断薬の投与を受けていた患者群の遠隔転移と局所再発、乳癌死亡のリスクは有意に低いことを明らかにした。詳細は3月26日に、スペインで開催された第7回欧州乳癌会議で報告された。

 著者らは、切除可能な原発性乳癌患者466人を分析対象とした。うち92人が高血圧患者で、乳癌診断時に降圧薬を処方されていた。β遮断薬の投与を受けていた43人(高血圧患者の46.7%)では、降圧薬を使用していなかった患者に比べ遠隔転移(p=0.03)と局所再発(p=0.003)が有意に少なかった。また、乳癌死亡リスクも他の患者に比べ71%低かった(ハザード比=0.288、p=0.007)。

 加えて著者らは、689人の乳癌患者に由来する組織標本を対象に、免疫組織化学分析とマイクロアレイを用いた発現プロファイル解析を行い、β遮断薬が作用する受容体の1つであるβ2アドレナリン受容体(β2AR)の発現が、β遮断薬に対する臨床反応と関係しているかどうかを調べた。

 β2ARたんぱく質の発現は小さな腫瘍(p=0.006)、悪性度の低い腫瘍(p<0.001)などで高かったが、発現レベルと臨床転帰の間に有意な関係は見られなかった。

 著者らは、β遮断薬が作用するβ2AR以外の標的についても同様の探索を進め、治療に対する反応の予測に役立つバイオマーカーを見い出したい考えだ。

 過去に行われた細胞株を用いた研究は、β遮断薬がさまざまな癌細胞の増殖や移動を抑制することを示していた。今回の結果は、同様の現象が人体でも起きていることを示唆した。

 β遮断薬は特定の受容体に結合し、ストレス・ホルモンであるノルアドレナリンやアドレナリンの作用を阻止する。腫瘍にはこれらストレス・ホルモンが高濃度に存在し、癌細胞の増殖と移動を促進している。従って、高血圧治療を目的としてβ遮断薬を投与されていた乳癌患者に見られた利益は、血圧管理の結果ではなく、この薬剤が腫瘍に直接作用したためと考えられた。実際に、β遮断薬以外の降圧薬を投与されていた患者には、転移や乳癌死亡のリスク低減は見られなかった。

 著者らは、高血圧ではない乳癌患者にβ遮断薬を投与した場合にも利益が期待できるとし、臨床試験を行って安全性を確認、最適用量を見いだし、さらには、既存の乳癌治療と併用できるかどうかを確認する必要があると述べている。加えて、安全性と費用対効果が高い薬剤であれば、2次癌発生リスクが高い患者に予防的に用いることも可能ではないかと著者らは考えている。

 現在、著者らは乳癌患者を対象とするより大規模な研究を行うために協力者と資金提供者を捜している。