肝癌に対する肝移植において、ドナーの肝由来のNK細胞を活性化してレシピエントに導入する細胞療法は、ミラノ基準非適合例でも再発や転移の抑制に有効である可能性が示された。2月20日に都内で開催された第7回日本免疫治療学研究会学術集会で、広島大学大学院先進医療開発科学講座外科学の大段秀樹氏が発表した。

 非代償性肝硬変を合併し肝予備能が低下した肝癌症例では、根治が期待できる唯一の治療法は肝移植である。しかし、進行肝癌では移植後に再発する可能性があり、肝癌に対する移植の適応基準であるミラノ基準(癌が単発の場合は直径5cm以下、多発の場合は3個以下で直径3cm以下)に適合すれば、無再発生存率は高いとされる。同大の無再発生存率はミラノ基準適合例では87%、非適合例では63%となっている。

 肝臓を全て摘出した後に画像検査では検出不可能な微小転移がある場合、肝移植後に拒絶反応の予防のためレシピエントに行われる免疫抑制療法が転移の発育を可能にすると考えられる。獲得免疫系が抑制され、抗腫瘍免疫応答が期待できないためだ。

 ただし自然免疫のNK細胞は拒絶反応には役割を果たさず、免疫抑制剤のタクロリムス、シクロスポリン、メチルプレドニゾロンもNK細胞の傷害活性にほとんど影響を与えない。大段氏らは、免疫抑制状態の患者にNK細胞を新たに導入すれば再発に対する効果が期待でき、安全性も高いのではないかと考えた。

 一部のNK細胞はTNF related apoptosis-inducing ligand(TRAIL)を発現し、一部の腫瘍細胞はそのレセプターを持つことが報告されている。正常細胞はレセプターを持たないか、持っていても細胞内ドメインを持たないデコイレセプターを同時に発現するため、TRAILを介したNK細胞の傷害活性の影響は受けない。

 大段氏らはマウスの実験で、肝臓に局在するNK細胞の約30%がTRAILを発現していることを確認した。このようなTRAIL表出NK細胞は、脾臓や末梢血にはほとんど検出されなかった。

 また肝切除などの傷害が肝臓に加わると、TRAIL表出NK細胞は顕著に減少することも分かった。マウスの肝臓を70%切除すると、この細胞の存在比率と表出強度は直ちに低下し、この状態で肝癌腫瘍株を門脈内に注入すると、腫瘍細胞が生着して1週間後には多くの転移巣を認めるようになる。同様に肝臓を70%切除して肝癌腫瘍株を注入しても、3日後に別の個体から採取した肝由来のNK細胞を注入すると、転移巣は1週間後に消失した。肝内のTRAIL表出NK細胞が癌の発育を抑制したと考えられる。

 同様のメカニズムがヒトにも存在するのかどうか検討した結果、大段氏らは、ヒトの肝単核細胞中では約46%、末梢血単核細胞中では約21%がNK細胞であることを確認した。TRAILは、肝由来のNK細胞では弱く表出していたが、末梢血ではほとんど表出していなかった。IL-2で3日間培養すると、肝由来のNK細胞は約65%と強発現したが、末梢血では表出しなかった。この結果から、肝由来のNK細胞はIL-2の刺激により、強い抗腫瘍分子を誘導できることが明らかになった。抗腫瘍活性が強いと自己正常細胞を認識することも分かった。

 肝移植時に測定した抗腫瘍活性は、刺激がない状態ではドナーの肝NK細胞のみに認め、IL-2刺激後はドナーの肝NK細胞で最も高く、レシピエントの肝NK細胞で最も低かった。また、肝移植後の再発率が高い中分化肝癌と低分化肝癌ではTRAILレセプターを高発現しており、TRAILを介した細胞死が誘導されやすいと予測された。

 肝移植ではドナーの肝臓を部分切除し、血液凝固を避けるため臓器潅流を行う。大段氏らはこの潅流廃液に含まれるNK細胞を採取し、IL-2とCD3モノクローナル抗体とともに3日間培養し、培養液を肝移植後のレシピエントに点滴静注する「ドナー肝由来活性化NK細胞療法」を臨床導入している。

 この細胞療法を行った患者では、肝癌に対する末梢血の抗腫瘍活性が移植後7日目に全例で亢進し、細胞療法を行わなかった患者と比べて違いが明らかだった。さらにTRAIL表出NK細胞の末梢血中の存在比率も、細胞療法を行った患者で移植7日目に有意に高くなっていた。

 大段氏らが行った肝移植のミラノ基準非適合例では、細胞療法を行わなかった29人中には再発や転移が発生しているが、細胞療法を行った9人は全員が無再発で経過している。

 「細胞療法が肝移植において肝癌の再発に有効に作用していることが確認された。検討を重ね、将来は移植患者以外にも適応を広げられたらと考えている」と大段氏は話した。