前立腺癌では、高齢、あるいは腫瘍が小さい、増殖が遅いといった「低リスク」の場合、すぐに治療を開始しなくても、有害な結果につながることなく安全に治療の延期が可能と考えられる――。Beth Israel Deaconess Medical Center (BIDMC)のMartin Sanda氏らが、検討結果を8月31日付けのJournal of Clinical Oncology誌電子版に発表した。

 Sanda氏らは、1986年から追跡を続けている5万1529人の男性を対象とした大規模コホート研究、Health Professionals Follow-Up Studyのデータを検討した。

 対象者は、2年ごとに「前立腺癌と診断されたか」などを含む、疾患や健康状態についての質問表に回答している。1986年から2007年に前立腺癌と診断されたのは3331人。このうち、10%を超える342人が1年以上治療を延期することを選択していた(治療延期群)。

 治療延期群と、前立腺癌の診断から1年以内に手術、放射線治療、ホルモン治療などの積極的な治療を選んだ群(積極治療群)について、診断後平均7.7年経過した時点のデータを比較した。この時点でも、治療延期群の約半分はいかなる治療も受けておらず、残りは診断後平均3.9年で何らかの治療を受けていた。前立腺癌による死亡率は、治療延期群が2%、積極治療群が1%で、統計学的な有意差はなかった。「低リスクの場合、前立腺癌による死亡は極めて少数」とSanda氏。

 前立腺癌の場合、腫瘍が大きく増殖の速い「高リスク」や「中等度リスク」では、治療による延命効果についてのエビデンスが数多く得られているが、低リスクの場合、ベストな治療法が確立していない。今回の対象者のうち、「低リスクとの診断で治療を延期した人たちで平均8年間、最長20年間経過が良好」(Sanda氏)だった。

 約20年前に登場した前立腺特異抗原(PSA)によるスクリーニングで、より早期の段階で前立腺癌を検出できるようになった。その結果、癌が小さく、短期的にも、おそらく長期的にも危険ではないと考えられる癌も見つかるようになった。

 「PSA検査は、前立腺癌の過剰診断につながるからと中止したほうがいいというわけではない。進行性の癌は治療し、それ以外はまず経過観察するという方法がとれる。過剰診断された低リスクの癌を治療することで生じる問題を回避すると同時に、進行性の癌を治療して命を守るというベネフィットが得られる」とSanda氏は話している。