2005年に大腸癌治療ガイドラインが発行されてから約3年がたち、現在改訂作業が進められている。この間に新たな機序の治療薬、分子標的薬が次々と承認されるなど、大腸がん領域の治療の進歩は著しい。10月に開催された第63回日本大腸肛門病学会学術集会では、「大腸癌治療ガイドライン−the pros and cons−」と題したシンポジウムが開かれ、現在のガイドラインの問題点を中心に、改訂をめぐる熱い議論が交わされた。

 まず大きな議論になったのが、現在のガイドラインでは「内視鏡的に摘除した粘膜下層への浸潤が明らかになったがんのうち、粘膜下層への浸潤が1000μm以上であれば、外科的切除を考慮する」と記されている部分についてだ。ガイドラインではこのほか、外科的切除を考慮する場合として、低分化腺がん、未分化がん、脈管侵襲陽性――を挙げている。

 防衛医科大学校外科学の上野秀樹氏は、大腸癌研究会sm癌プロジェクト研究の調査結果として、1000μm以上の粘膜下層への浸潤がんが、粘膜下層浸潤がん全体の78%を占めること、さらに1000μm以上の粘膜下層への浸潤がんのうちリンパ節転移がみられた割合は13%と、低分化腺がんの25%、脈管侵襲陽性の23%に比べ、約半分にとどまる低い数値であることを紹介した。

 「全体の約8割を拾い上げる方法は、合理的とは呼びがたい。1000μm以内という数値は、内視鏡治療における治癒切除を判断する指標と位置づけるのが妥当であり、リンパ節転移のリスクが高いより少数の患者を高率に拾い上げる新たな因子を探す必要がある」と上野氏は指摘した。同氏は、その因子の候補としてがんの先進部組織を挙げ、この部分に低分化傾向がみられたり、粘液の産生があるとリンパ節転移率が高いとのデータを紹介し、早く評価基準を確立すべきとした。

●追加切除が不要な粘膜下層浸潤がんもある

 また、東京女子医科大学消化器病センターの井上雄志氏は、「ガイドラインが発行されるまで、当施設では独自に粘膜下層への浸潤が1500μm以上で脈管侵襲陽性の場合を外科的切除の適応としていた」と述べた。同施設では、1990年から2005年までは粘膜下層浸潤がん481人のうち、最初に内視鏡治療を行ったのが299人、手術を行ったのが182人。追加で外科的切除を行ったのは約3割と少ないものの、術後の再発は現段階で4人(内視鏡治療2人、手術2人)にとどまっている。

 一方、ガイドライン発行後は、ガイドラインに準じる形で外科的切除の適応を見直したことから、粘膜下層浸潤がん66人のうち、最初に内視鏡治療を行ったのは14人、手術を行ったのが44人と、手術の割合が増加した。さらに、追加で外科的切除を行ったのは8人と半数を超えた。しかし、追加切除によりリンパ節転移陽性だったのは1人のみだった。

 井上氏は「もともと、粘膜下層浸潤がんのリンパ節転移は約1割で、裏を返せば約9割は追加切除が不要とも言える。ガイドラインに『外科的切除を考慮する』とあると、患者は、粘膜下層に1000μm以上の浸潤があればすべて手術が必要、と受け取ってしまう。現在は少なからずの患者が過剰に負担の高い手術を受けている」と注意を促した。その上で、「個々の症例の背景と患者の意思をよく検討した上で追加切除を行うかどうか判断する、と明記すべきだ」と強調した。

●術後サーベイランスは単純化を目指す動き

 次に、現在はステージごとに分けられている大腸がん治癒切除後のサーベイランスのあり方が議論になった。上野氏は、「超音波検査や胸部X線検査は、検査をする者の読影力に負うところが大きいので、普及が進んできたCT検査をより主要な位置に変更すべきだ」と話した。また、現在は3カ月ごと、半年ごと、1年ごとと検査項目が多く、さらに「必要に応じて」「胸部X線検査もしくはCT検査」など、曖昧な記載についても問題点として挙げた。

 その上で、再発する場所に違いがあると以前から指摘されていた結腸がんと直腸がんを分け、問診・診察と腫瘍マーカー検査を3カ月ごと、CT・MRI検査を半年ごと、大腸内視鏡検査を直腸がんでは毎年、結腸がんでは術後1年と3年――と単純化するという改訂の方向性を提示した。

 総合討論では、会場から「肺転移や局所再発については、術後5年以降もある程度の割合でみられるので、5年目以降のサーベイランスをどうするかについても検討すべき」「密なサーベイランスを行えば、当然、早期に再発を発見できるがんは増えるだろうが、それによって本当に生存率が改善するかを見極めてからガイドラインに盛り込むべきではないか」といった意見が出された。

 また、「他のがんの治療ガイドラインに比べ、読み物風の記述で読みやすいが、エビデンスレベルがはっきりしない。推奨レベルを明確にしてほしい」との要望も出された。最後に、大腸癌研究会のガイドライン委員会委員長で、このセッションの司会を務めた栃木県立がんセンター外科の固武健二郎氏は、活発な議論に感謝するとともに、来年1月に開催される大腸癌研究会で改訂案が発表されること、その後さらに検討を加え、来夏の出版を目指していることを明らかにした。