癌患者では一般の倍以上に不眠症の頻度が増加し、特に乳癌で顕著な傾向を示すことが知られている。乳癌女性の不眠症の予測因子として、呼吸の状態によって心拍数が変動する呼吸性洞性不整脈が有用で、ストレスホルモンであるコルチゾールの変動とも関係していることが分かった。これは米Rochester大学Wilmot Cancer CenterのOxana Palesh氏らの研究で、Journal of Clinical Sleep Medicine10月15日号に掲載された。

 呼吸性洞性不整脈(RSA)は、不整脈の1つだが、健康な若い人に多く見られる正常なもの。吸気時に心拍数が増加し,呼気時に減少する。副交感神経性の心臓迷走神経の活動によるもので、呼吸と心臓の協調運動を反映するともいわれている。加齢とともに減少し、精神的なストレスや激しい運動でRSAは減弱する。不眠症に関するこれまでの研究では、睡眠パターンが混乱するとRSA値が低くなり、コルチゾールが高くなる傾向を示すことが報告されている。

 この研究では、RSAを副交感神経の状態の指標として用いた。対象は、転移性あるいは再発性乳癌の女性99人(平均54.65歳)で、白人が85%を占め、アジア人は10%含まれていた。転移場所は骨が23%、胸部が36%、内臓が42%だった。化学療法を受けていた人が86%、放射線療法が82%、ホルモン療法が66%だった。

 睡眠状態を睡眠覚醒判定装置を使って測った結果、2日間の睡眠時間の平均は7.98時間、中央値は8.20時間で、入眠までに費やした時間は平均11.50分、中央値は8.67分、さらに入眠から夜間覚醒までの時間は平均71.44分、中央値55.67分だった。

 一晩あたりの覚醒回数は平均で15回、中央値は14.5回で、覚醒時間は平均4.81分、中央値4.16分だった。実際の入眠時間を全睡眠時間で割った値を睡眠効率としたところ、平均は84.5%、中央値は88%だった。

 試験開始時のRSAとの関係を求めたところ、RSAは睡眠効率が高い人ほど高値を示す正の相関(r=0.39、p=0.001)があり、夜間の覚醒時間と負の相関(r=−0.43、p<0.001)が認められた。また経時的なRSA を曲線下面積(AUC)で評価した結果、RSAは睡眠効率と正の相関(r=0.45、p<0.001)が、夜間の覚醒回数と負の相関(r=−0.27、p=0.04)、さらに覚醒時間と負の相関(r=−0.41、p=0.001)が見られ、睡眠障害はRSAの低下につながることが示された。

 また、唾液中のコルチゾール濃度を、起床時、起床後30分、12時、17時、21時の5回測定したところ、起床時のコルチゾール濃度は中央値0.53μg/dLで、起床後30分には増加し、中央値で0.21μg/dL高くなった。コルチゾール濃度は通常、正午から夜間にかけて急激に減少する。研究ではこの減少傾向の程度を対数変換で傾斜として求めたところ、夜間の覚醒時間が長い人ほど、日中のコルチゾール濃度の傾斜は弱く(r=0.21、p=0.04)、コルチゾール濃度が高い状態が続きやすいことが示された。

 これらのことから、著者らは「睡眠によるストレスを緩和する作用が、副交感神経の状態を改善し、日中のコルチゾール変動を正常化しているのだろう。言い換えると迷走神経の機能障害を反映するRSAは、睡眠障害の指標として有効だ」と論じている。