肝癌に対する肝移植の適応基準として、ミラノ基準UCSF基準などが知られている。9月5日から米国シカゴで開催された、世界中の肝癌に関する専門家が集まったInternational Liver Cancer Association(ILCA)2008では、ワークショップ「Liver transplantation in HCC, Entering the era beyond Milan and UCSF criteria in OLT, Building the future in solid ground」が開催され、ミラノ基準やUCSF基準を超えた移植が可能かどうか議論された。


 肝移植におけるミラノ基準は、遠隔転移血管浸潤がなく、肝細胞癌が単発で腫瘍径5cm以下か、多発例では3個以内で径3cm以下の場合となっている。一方、UCSF基準は単発で径6.5cm以内か、多発例では3個以内で径4.5cm以下でトータルの直径が8cm以下の場合だ。

 米UCSF(University of California San Francisco)教授のFrancis Yao氏は、
・肝移植の基準は肝移植後の5年生存率が50%を超えていることが最低条件であること
・症例数の少ない施設における画像診断による腫瘍のステージングの正確さを考慮する必要があること
・肝移植における術前の局所治療の効果はまだ明確に示されていないこと
などを指摘した。そして、UCSF基準は移植後5年生存率が60%以上である一方、症例数の少ない施設において腫瘍の過小なステージングをしている例があることや5年生存率が最低でも50%を超える必要があることを考えると移植基準を広げることは難しいと語った。

 次に登壇したのは日赤医療センター院長の幕内雅敏氏で、アジアでの肝移植の現状を報告した。幕内氏は、アジアでは生体肝移植が中心で、
・「東京基準」では腫瘍径5cm以下、腫瘍の個数5個以下という基準で5年生存率は91%
・「京都基準」では径5cm以下、腫瘍の個数10個以下、PIVKA-II値が400mAU/ml以下という基準で5年生存率は87%
・「福岡基準」では腫瘍径や個数は設定せず、血管浸潤がないことを基準として3年生存率は69%
・「韓国Asan基準」では径5cm以下、個数6個以下という基準で5年生存率は76%
であることを示した。そして、5年無再発生存率が80%を超える必要があると考えていること、HCVのコントロールがポイントであること、生体肝移植においてはミラノ基準の拡大は限定されるべきであることを語った。

 ドイツUniversity of LeipzigのSven Jonas氏がまとめたのは肝移植の基準における腫瘍総体積の位置づけだ。今年8月に、カナダUniversity of Albertaのグループが腫瘍総体積が肝移植における再発のリスク予測に有用とする論文を発表している。この論文では、ROC曲線により腫瘍総体積のカットオフ値を115cm3としたところ、肝細胞癌再発リスクはミラノ基準、UCSF基準と変わらないとしている。115cm3は、1個の腫瘍として考えた場合、UCSF基準である単発6.5cm以下という基準よりも小さい。Jonas氏は、腫瘍総体積は腫瘍の個数よりも腫瘍径が重要視されること、病理学的に評価した腫瘍総体積115cm3以下というカットオフ値はまだ十分に確立したものではないことなどを指摘した。

 肝移植におけるバイオマーカーサロゲートマーカーの話題については、まず、カナダUniversity of ManitobaのEberhard Renner氏が血管浸潤と低分化型が肝細胞癌の再発と肝移植後の生存期間の短縮に関与し、肝移植術前の生検がミラノ基準を超えた肝細胞癌症例にとって利益がある可能性があると語った。

 次に登壇した京都大肝胆膵・移植外科准教授の江川裕人氏は、肝移植において、腫瘍が10個以下、径5cm以下に加えてPIVKA-II値が400mAU/ml以下という京都基準では5年生存率87%であり、この基準を超えた場合の5年生存率は31%という結果を紹介したほか、鳥取大学機能再生医学研究科の三浦典正氏、汐田剛史氏のグループが肝細胞癌組織と血清におけるテロメラーゼmRNA(hTERT mRNA)量が相関することを明らかにしていると語り、新たなバイオマーカーになる可能性を指摘した。

 肝移植前の腫瘍のステージングについて、イタリアUniversity of PisaのRiccardo Lencioni氏は、画像診断技術が向上しているにもかかわらず、移植前の腫瘍のステージングの正確さはまだ不十分で、特に1cm以下の肝細胞癌を過少評価しがちであると指摘した。また、ダイナミックCT、ダイナミックMRIによる診断はスタンダードであるべきとし、施設間の診断精度には差があることから熱意のある放射線科医の関与が重要であると語った。

 また、ワークショップでは、生体肝移植の推進の是非について議論されたほか、スイスUniversity Hospital ZerichのBeat Mullhaupt氏は、肝移植前に肝細胞癌を縮小させる治療を行う効果について、まだデータが不十分であること、肝外転移や血管浸潤例は除外すべきこと、腫瘍の個数や大きさについてまだはっきりしないこと、ダウンステージングさせる方法はどの方法を選ぶべきかはっきりしていないことなどを指摘した。

 最後に幕内氏は発言を求め、日本のデータでは移植前にTACERFAを行ってダウンステージされミラノ基準に入った例は、移植前治療なしにミラノ基準内である症例と移植後の生存に差がないことが明らかにされ、日本の健康保険の適応基準も変更されたと述べた。さらに、化学療法でのRECISTによる効果判定基準は、TACEやRFAによる治療には適切な指標ではなく、新しい効果判定基準が必要であることを指摘し、ワークショップは終了した。

 このワークショップでは、ミラノ基準やUCSF基準を超えた肝移植の是非について結論は出していない。幕内氏は今回の議論に関して、「ミラノ基準やUCSF基準を大幅に拡大することは危険であり、皆少し適応が広がるかといった程度である。しかし、江川氏の発言にあるように、Tumor Markerを組み入れることで個数は広げられるというのは注目に値する」と印象を語った。