「科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン」の改訂内容がほぼ固まった。さらなる検討が必要となった1項目以外は、ガイドライン改訂委員会が示した内容が、日本膵臓学会で7月31日に開催された公聴会で了承された。今後、改訂案は、同学会のウェブサイト上で公開され、再度、意見を募るというプロセスを踏むものの、大きな変更が入る可能性は少ない。

 膵癌の診療ガイドラインである「科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン」は、初版が2006年3月に発行された。「発行時から、3年ごとに改訂することを決めていたため、初版の発行と同時に改訂作業を開始していた」と、日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改定委員会の委員の一人である産業医科大学第1外科の山口幸二氏は改訂の経緯を語った。

●局所進行切除不能膵癌への化学療法の推奨度は保留

 今回の改定案では、まず、推奨グレードの変更が示された(文末参照)。これまでAからDまでの4段階に分けられていた推奨グレードにおいて、CがC1、C2に分けられ、5段階表記となった。

 今回の公聴会で示された改訂案では、2項目で推奨度が上げられていた。1つは、局所進行切除不能膵癌に対する化学療法単独治療。前回の推奨グレードCからBへの変更案が示された。

 しかし、この点に関しては、科学的根拠となっている臨床試験のデザインに問題が指摘されていることなども加味して、推奨度を上げることに慎重な意見が示された。また、同じ局所進行切除不能膵癌に対して、化学放射線療法がグレードBで推奨されていることから、同じレベルで2つの治療法を推奨することに問題がないかも確認が必要となった。そのため、同項目の推奨度については、更に検討を行うこととなった。今後の審議次第で、推奨グレードはC1もしくはBのどちらかになる。

 もう1項目、初版から推奨グレードの変更が示されたのは、塩酸ゲムシタビンを用いた術後補助化学療法だ。改訂案では、「国際的に十分なコンセンサスを得られた術後補助療法のレジメンは確立していないが、塩酸ゲムシタビンによる術後補助化学療法は、有用性、安全性の点で比較的良好な成績を示している」と表記され、一段階上のグレードBとなった。この項目に関しては、特に異論は出されず了承されたといえる。

●切除不能局所進行膵癌への5-FU併用化学放射線治療を追加

 改定案では、3つの項目が新しく追加されていた。放射線治療の分野で2項目、外科治療の分野で1項目となっている。

 放射線治療で新しく追加された項目は、切除不能局所進行膵癌に対する5-FU併用化学放射線治療。標準的な治療法として、グレードBで推奨している。同項目では、塩酸ゲムシタビンを併用する化学放射線療法も有効性が示唆されているが、臨床試験の対象となった患者数が少ない点などが指摘され、「5-FUに代わるものとして積極的に推奨するだけの科学的根拠は十分ではない」とされた。

 ただし、今回の公聴会の座長を務めた、国立病院機構九州がんセンター消化器内科の船越顕博氏は「将来、(ゲムシタビン併用が5-FU併用に)代わる可能性は十分にある」と、今後、データの蓄積が進むことへの期待を示した。また、聴衆からは、「S-1やカペシタビンの併用に関しても、研究が進展中であることを言及して欲しい」という意見も出されていた。

 また、切除不能局所進行膵癌への外部放射線治療として、転移の頻度が高いリンパ節領域も照射範囲に入れることが、グレードC1で新しい項目として推奨された。同項目は、米国NCCN(National Comprehensive Cancer Network)の診療ガイドラインの影響を受けて設けられたようだ。NCCNとは、全米で代表的な20の癌センターによって結成された組織。最新のエビデンスに対応した癌治療のガイドラインを作成している。NCCN診療ガイドラインの2008年版では、CTを用いた3次元放射線治療計画の下、原発腫瘍と領域リンパ節を含めて放射線の照射範囲とするよう勧められている(カテゴリー2A)。

 今後、放射線治療の高精度化が進むなか、照射範囲の決定が治療と治療成績に与える影響に関する前向き比較試験を行う必要性が、ガイドライン改定案では述べられている。

●QOL改善のための保存的手術の意義が明確に

 外科治療の領域で新たに加わったのは、治癒目的ではなく、患者のQOL改善を目的で行う保存的手術の意義についての項目だ。同項目では、非切除となった黄疸を伴う膵癌に対して、胆管空腸吻合術による減黄術、予防的胃空腸吻合術が推奨された(グレードB)。

 膵癌の進行とともに発生する閉塞性黄疸、十二指腸狭窄による通過障害、癌性疼痛などは患者のQOLを損なうものであり、これらの症状を回避もしくは改善させる手術の意義は大きい。保存的外科手術に関して、「我が国ではやや置き去りにされて来た分野」と認めた上で、「今後、問題を整理していく必要がある」とまとめられた。

 一方、補助療法の分野では、これまで術前化学放射線治療のみが術前治療として記載されていたところに、術前の化学療法が追加された。術前化学放射線治療、化学療法ともに、有用性を指示する論文はあるものの、RCTによる成果はまだ出ていないため、推奨グレードはC1となっている。
(小板橋 律子)

※推奨グレードの意味
既存のガイドラインにおける推奨グレード
 A 行うよう強く勧められる
 B 行うよう勧められる
 C 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
 D 行わないよう勧められる

改定案で示された新しい推奨グレード
 A 強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
 B 科学的根拠があり、行うよう勧められる
 C1 科学的根拠はないが、行うよう勧められる
 C2 科学的根拠がなく、行わないよう勧められる
 D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる


【訂正】9月1日に以下の訂正をしました。
 国立病院機構九州がんセンター消化器内科の船越顕博氏のお名前を間違えて記載していました。深くお詫びいたします。