遠隔転移を起こした甲状腺癌の予後は悪い。血管新生阻害剤モテサニブ(AMG706)が、転移性甲状腺癌患者の病気の進行を遅らせることが明らかになった。米Texas大学M.D. Anderson癌センターのSteven I. Sherman氏らが、NEJM誌2008年7月3日号に報告した。研究者たちは、遺伝子の変異と臨床転帰を結びつけるデータも得ている。

 モテサニブは経口マルチキナーゼ阻害剤で、血管内皮成長因子(VEGF)受容体、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体、KIT受容体を阻害する。

 一般に分化型甲状腺癌は悪性度が低い。しかし、遠隔転移が生じる場合には危険度が高く、予後が悪い。こうなると治療の選択肢はほとんど無い。放射線ヨード治療が有効な患者はわずかで、それ以外の患者の生存期間の中央値は2-4年だ。10年生存率は15%未満となっている。

 著者らは、そうした患者にモテサニブを適用するオープンラベルのフェーズ2臨床試験を行った。

 モテサニブを開発した米Amgen社のメンバーと10カ国の研究者が協力して実施したこの試験は、転移性甲状腺癌を対象とする臨床試験としては過去最大規模となった。42施設で、局所進行型または転移性の進行性甲状腺癌で放射性ヨード治療が有効でなかった患者93人を登録。57人(61%)が甲状腺の乳頭癌だった。125mgのモテサニブを1日1回48週間経口投与。有害事象が強い場合と病気が進行した場合には投与を中止した。

 主要エンドポイントは客観的奏効率(腫瘍縮小)に設定。他に奏効期間、無進行生存期間、血清サイログロブリン値、安全性も評価した。

 治療に対する腫瘍の反応は、CTとMRIで8週ごとに頸部、胸部、腹部を調べて評価。部分奏効と完全奏効は、4週以上間隔をあけた2回の検査の結果を基に判断した。

 48週間の治療を完了したのは93人中32人の患者。モテサニブの投与を中止したのは、病気が進行した35人と有害事象が強かった12人。そのほか、5人の患者が死亡し9人が脱落した。

 分析はintention-to-treatで行った。腫瘍縮小(部分奏効)は13人(14%)で、主要エンドポイントに設定された客観的奏功率は14%となった。病態安定は62人(67%)、うち33人(35%)はその状態が24週以上継続した。また、病態安定グループの中には、部分奏効の基準には満たないものの腫瘍縮小が認められた患者が9人(10%)いた。治療を完了したが進行が見られた患者は7人(8%)だった。11人(12%)については、検査の不備などにより治療に対する反応の情報が得られなかった。

 奏効期間の中央値は32週、無増悪生存期間の中央値は40週と推測された。奏効率は49%だった(部分奏効+24週以上の病態安定=49人)。

 サイログロブリン値が測定されたのは75人の患者。81%でベースラインに比べ値が低下していた。

 87人(94%)が何らかの有害事象を経験した。多かったのは、下痢(59%)、高血圧(56%)、疲労(46%)、体重減少(40%)だった。グレード3の重症有害事象は51人、生命を脅かすレベルのグレード4の有害事象は5人に見られた。

 研究者たちは、治療に対する反応に関係する遺伝子の同定にも取り組んだ。25人の患者の腫瘍にBRAF V600E変異が認められ、これらの患者のモテサニブに対する反応性は高かったという。BRAFはセリン/スレオニンキナーゼをコードしており、V600Eは活性化変異だ。これまでにメラノーマ、大腸癌とこの変異の関係が報告されている。甲状腺癌におけるV600E変異の存在と治療効果の間の関連性についてはさらに研究が必要だが、個の医療実践に向け希望を与える情報といえる。

 国内でもモテサニブを固形癌に投与する臨床試験が数年前から行われてきた。2008年2月には、武田薬品が米Amgen社とライセンス契約を結び、モテサニブに関する日本での独占的開発・販売権と海外での共同開発・販売権を得ている。