国立がんセンター東病院は、がん患者のこころの状態を簡単に測定する方法「つらさと支障の寒暖計」(図1参照)を導入し、適応障害やうつ病が疑われる場合に、精神腫瘍科の早期受診に結びつけることに成功し始めている。

 うつ病は心の風邪と呼ばれるように、多くの現代人が罹っている心の病気だ。ただし、「風邪と表現されても、自殺すなわち死に結びつく危険性もあり、軽く扱うことは禁物。早期から何らかの援助が必要」と、この寒暖計を開発・導入した同病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部の内富庸介氏は強調する。

 また、「がんの告知はその人の人生の中で非常に大きな困難です。がん患者さんは、皆、がんの診断を受けたことで悲しみの縁に追いやられています。この悲しみを1人で抱え込み、見通しの立たない苦しみを背負い込むことで、うつ病や適応障害になる人は決して少なくないのです」と訴える。実際、がん経験者の2〜3人に1人は心理的カウンセリングを必要としているという。

 しかし、その一方で、「“精神科”にマイナスイメージを持っている患者さんは多く、『がんになった上に、精神科のお世話になるなんて』と抵抗感を持つ患者さんやその家族も多い」と内富氏。そのため、内富氏らは、患者さんが精神腫瘍科を受診しやすくなる“キッカケ作り”として、「つらさと支障の寒暖計」を作成したという。

 現在、国立がんセンター東病院を受診する患者やその家族には、一律に、この寒暖計も掲載された記載した精神腫瘍科外来のパンフレットを渡しているという。

 また今回、厚生労働科学研究費補助金を用いた調査研究として、この寒暖計の導入により、精神腫瘍科の受診や適応障害や抑うつの治療との関連を検討した。

 調査は、2007年4月1日から9月30日までの同病院対院治療センターにおいて外来化学療法を開始した患者全員520人を対象とした。各患者の精神的ストレスを、同寒暖計を用いて、初回外来化学療法時と2回目の外来化学療法時に測定し、その結果、適応障害やうつ病が疑われた場合には、その結果を伝え精神腫瘍科の受診を奨励した。

 その結果、同寒暖計による測定で、適応障害やうつ病が疑われた患者は、全体の21.8%(64人)存在していたという。そのうち、精神腫瘍科を実際に受診した患者は26人(全体の5.0%)、適応障害・うつ病と診断されたのは15人(全体の2.7%)となった。

 寒暖計導入前の2006年4月1日から9月30日までに同センターで外来化学療法を開始した患者全員478人のデータと比較したところ、対照群では、精神腫瘍科受診率は9人(全体の1.9%)、適応障害・うつ病の診断を受けた患者数は5人(全体の1.0%)となっていた。すなわち、寒暖計導入後の精神腫瘍科の受診率、適応障害やうつ病の診断率ともに高くなっていた訳だ。寒暖計が、精神的なストレスを抱えている場合に、精神腫瘍科を受診するキッカケとなっているようだ。

 加えて同氏らは、初回化学療法を行った日から、精神腫瘍科受診までの日数を比較した。その結果、寒暖計導入前は、受診までの平均日数が48.2日であったものが、導入後には17.9日と有意に短縮されていることを確認した。また、適応障害やうつ病との診断までの日数も、導入前は平均55.6日であったものが、導入後、12.9日となっていた。寒暖計の導入により、精神的につらい症状を抱えている場合に、より早期に精神腫瘍科を受診できるようになり、また、適切な治療を早期に受けられるようになったといえる。

 「体の痛みは、その痛みから逃れる見通しを立てやすいものです。しかし、心の痛みから逃れる見通しを立てるのはとても難しい。そのため、死をもってでも、この痛みを終わらせたいと思ってしまうものなのです。しかし、自分1人では、心の痛みから逃れる見通しが立たない場合でも、誰かにその痛みを打ち明けることで、必ず、その痛みを緩和することができます。1人で抱え込まないで欲しいのです」と内富氏は訴えた。

 図1を参考に自分や家族のこころの状態を測定してみてほしい。この1週間の気持ちのつらさが4以上、日常生活の支障が3以上の場合には、精神的なストレスを抱え込んでいる可能性がある。その場合は、主治医や看護師などの医療者に相談し、精神的なサポートを得ることも検討に値する。

図1 つらさと支障の寒暖計