外資系製薬企業研究所の日本からの撤退が相次ぐ中、万有製薬はつくば研究所の活動を活発化させている。新規抗癌剤の10年以内の上市を目指し、研究員450人の約4割が癌に取り組む。焦点は分子標的薬、中でもリン酸化酵素阻害剤だ。


万有製薬副社長執行役員つくば研究所長のデニス・M・シュマッツ氏

 「ボストンの研究所と人数は同じだが、成果の70%はつくば研究所から出ている」と、万有製薬副社長執行役員つくば研究所長のデニス・M・シュマッツ氏は胸を張る。万有製薬は米Merck社の100%子会社であり、Merck社の抗癌剤研究はボストンとつくばの2カ所で行われている。

 もともとMerck社は、抗癌剤に強かったわけではない。しかし今では、パピローマウイルスワクチン「Gardasil」(ガーダシル)、進行性の皮膚T細胞性リンパ腫治療薬の「ZOLINZA」を販売していることに加え、フェーズIIIに1剤、フェーズIIに2剤、フェーズIに6剤の抗癌剤候補を保有(2007年12月現在)するところまで成長してきている。その核になっているのが、つくば研究所ということになる。

 さらにシュマッツ氏は、「10年以内につくば研究所発の抗癌剤が日本に登場すると、かなり高い確率で言うことが出来る」と強調した。「現在、日本で臨床入り(フェーズI)しているものもある」。

世界中から集められた化合物をスクリーニング

 同研究所癌研究部部長兼ファンクショナルゲノム長の小谷秀仁氏によると、万有製薬のつくば研究所が分子標的型抗癌剤の開発に本格的に着手したのは5年ほど前。中でも、リン酸化酵素阻害剤に焦点を当てた低分子抗癌剤の開発を推し進めている。

 万有つくば研究所の強みは、Merck社が持つ全世界的なネットワークを活用できることにある。

 例えば、今はMerck社の一部門となっている米Rosetta社のsiRNA(特定の遺伝子の発現を抑制する短鎖RNA)ライブラリーを用いて、ヒトのゲノム全体の解析、スクリーニングが可能である。また、siRNAの治療薬としての開発を進める米Sirna社も、今やMerck社の子会社だ。現在スクリーニングを行っている標的の半分は、これらのネットワークを活用した独自のものだという。

 また、つくば研究所では、癌種に特化した研究をするのではなく、細胞内経路の異常を解析し、最終的にどの癌種に向いているかを判別する開発手法をとっている。

 DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析のデータは、全世界の研究所がほぼ同時にアクセスできる。また、ポストGPCR(Gたんぱく質共役型受容体)として標的に選んだリン酸化酵素については、世界中から集められた候補化合物を1週間で300種スクリーニングできる能力を持つ。また、日本のアカデミアと連携した蛋白質の構造解析、酵素阻害分子の設計、バーチャルスクリーニングにも強みを持つという。

 同研究所は、標的の同定から安全性を評価する前臨床研究までを担当しており、同時に6個の分子の開発を進めることができる。さらに、バイオマーカーの探索など、臨床試験のサポート部門としての役割を果たし、大学などとの接点としても機能している。アジアへの進出の足がかりになるのも、つくば研究所だ。

 シュマッツ氏は「分子標的薬という分野に限れば、Merck社が世界のリーダーになるのはそれほど難しいことではない」と自信を見せる。