これまで癌の診断に使われてきたMRI用のガドリニウム造影剤は、血流に乗って目的臓器に到達し、臓器内での血管や細胞外液における存在量の違いによって画像上に病変を描出してきた。肝細胞癌では、正常組織と腫瘍組織の間の血流の違いにより腫瘍組織が区別される。このガドリニウム造影剤に細胞特異性という特徴を追加した、新しいMRI用造影剤が1月25日に発売開始となった。新造影剤の登場によって、これまで行われてきた肝癌のスクリーニング検査が変わる可能性がでてきた。

 「肝炎ウイルス感染者における肝細胞癌のスクリーニング検査は、超音波による定期的な検査と共に、この造影剤を使ったMRIを年に1〜2回行うのがいいのではないか」──慶應義塾大学放射線診断科准教授の谷本伸弘氏は、新たに発売されたMRI造影剤「EOB・プリモビスト注シリンジ」の特徴と使い方について、1月30日開催されたプレスセミナーで講演した。

 「EOB・プリモビスト注シリンジ」(以下プリモビスト 販売:バイエル薬品)は、従来からMRI用造影剤として使われてきた「マグネビスト」にエトキシベンジル基を導入して肝細胞への特異性を持たせたことが大きな特徴だ。具体的には、正常肝細胞が胆汁色素であるビリルビンを取り込むのと同じ機序により正常肝細胞に取り込まれやすくなっている。体内に注入されたプリモビストの約40%が肝細胞に取り込まれると推定されている。一方、機能が失われた肝細胞癌では、プリモビストが取り込まれない。その結果、画像上で正常肝組織と肝細胞癌とが明瞭に区別されるという仕組みだ。

肝腫瘍検査のために使われる3つの画像診断法

 現在、肝腫瘍の診断には、大きく3つの手法が用いられている。1つは、最も侵襲性が低い超音波検査。2つ目はダイナミックCTダイナミックMRIといったダイナミック造影法、3つ目はSPIO検査だ。

図1 プリモビスト投与後のMR画像の変化(画像をクリックすると拡大します)

 ダイナミックCTやダイナミックMRIでは、CTの場合はヨード造影剤、MRIの場合はガドリニウム造影剤を、秒間2〜4mLで急速静注する。静注された造影剤は塊(bolus)として右心系、肺、左心系を通過して大動脈から駆出され、肝臓に到達する。肝臓へは、肝動脈と門脈の2種類の流入血管が存在する。

 肝臓に造影剤が到達するタイミングで、動脈相、門脈相、平衡相の3相を撮影する。肝動脈から肝臓に流れ込んだ造影剤は、まず多血性肝腫瘍など血管の豊富な部位に流れ込む。図1左側は造影剤投与20〜35秒後の動脈相だが、このタイミングで撮影することで血管の豊富な部位が強く造影される。そして門脈相(70〜90秒)を経過して3分後の平衡相になると、造影剤は肝実質全体に分布し、逆に最初に造影された血管の豊富な部位での造影剤の濃度は下がる。動脈相では血管の多い部位が強く造影され、平衡相では正常肝組織が強く造影されるため、各相で撮影した画像を解析すれば、肝細胞癌を精度高く診断できるという仕組みだ。

 SPIO検査はMRI造影診断法の一種だが、直径5nm程度の酸化鉄が多数つながって60nm程度の大きさとなった造影剤を用いる。この磁性を持った酸化鉄をSPIOと呼ぶが、肝臓に存在するクッパー細胞は貪食機能によってSPIOを取り込む性質がある。癌化した組織にはクッパー細胞がないため、正常組織と肝細胞癌の間で画像上でコントラストが生まれ、診断が可能な方法だ。

ダイナミック造影相と肝機能造影相を一度に撮影できる

 さて、プリモビストは、マグネビストと同様、ダイナミック造影法に利用できる。加えて、正常肝機能を持つ細胞には取り込まれ、正常肝機能を失った肝細胞癌には取り込まれないため、正常組織と肝細胞癌を区別することができる。

 具体的には、患者に急速静注し、投与20〜35秒後の動脈相、70〜90秒後の門脈相、3分後の平衡相を撮影した後、約20分後の肝細胞造影相を撮影するという使い方によって、血流の量による診断と肝機能の有無による診断を1つの薬剤、1回の撮影で行うことができる(図1)。