名古屋大学消化器外科分野教授の中尾昭公氏らのグループは、癌細胞を死滅させる性質を持つ単純ヘルペスウイルスを使った、膵臓癌を対象とするフェーズI臨床試験を再開することを明らかにした。同グループは、この単純ヘルペスウイルス「HF10」を使って、乳癌の皮膚転移6症例を対象に病理学的評価を行い、グレード1からグレード3の効果が得られた実績などを持つ。

 同グループは、2005年に膵臓癌患者3人を対象に試験を行っていた。この試験は十分な症例数ではなく、さらに多くの症例での検討が必要としているが、血液生化学データや血液中DNA、排液中ウイルス検査などで安全性が問題ないことを確認していた。ウイルスが検出されたのは腫瘍組織のみだったという。効果については、1カ月間の入院期間中に2人で腫瘍マーカーであるCA19-9の低下が観察され、NK細胞活性の上昇が全例で認められ、病理組織は、抗癌剤や放射線治療の場合とは異なる融解した腫瘍組織が確認されていた。

 その後、同グループは、ウイルス製剤「HF10」について、将来的な医薬品化を見越してより精度の高いGMP規格の製剤にすべきと考え、海外の企業に製造委託していたため、試験を中断していたが、今回、製剤ができたため、試験を再開するもの。

 HF10は、名古屋大学で単離された単純ヘルペスウイルスで、増殖が活発(核酸合成が活発)な細胞で増殖する性質を持つ。そのため、腫瘍細胞の中で増殖し、その後、腫瘍細胞を破壊して周囲の細胞に拡散、感染することで抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。正常細胞では、アポトーシスが起きることでHF10が感染しても増殖しないが、腫瘍細胞ではアポトーシスの機構が破綻しているため増殖すると考えられるという。

 HF10の投与法は、術中術後に計3回、腫瘍組織に直接注入する方法だ。

 再開する臨床試験はフェーズI試験で、対象となる患者は6人を予定している。手術前の検査で切除可能と判断したものの、手術の際に高度な浸潤や遠隔転移が認められ切除不能と判断された進行膵癌患者か、手術前検査で切除不能と判断されたものの、何らかの理由で開腹手術を必要とする進行膵癌患者で、開腹治療歴がなく、手術前検査で遠隔転移が認められない患者だ。

 2003年に実施した、再発乳癌の皮膚転移に対する臨床試験では、6人を対象に試験を実施し、病理学的評価ができたのは5人。治療効果グレード1aが1人、グレード1bが2人、グレード2が1人、グレード2-3が1人という結果だった。