「肝臓がんは非常に厄介ながん」

 肝臓がんも長期間にわたって再発を繰り返すがんであることがデータから読み取ることができる。「肝臓がんは非常に厄介ながんだ」と三上氏は指摘する。「肝炎から肝硬変を経て発生するがんで、肝硬変の終末期に出現するがんでもある。身体のホメオスタシスが崩れた状態にあり、肺がんよりも厳しいがん」だとの見解を示した。

 同氏は種々のがんの生存期間の分析から、膵臓がんを「足の速いがん」と指摘する。膵臓がんはII〜IV期のがんでは診断から2年を経過した時点で半分以上が死亡してしまう。I期でも29.6%、II期では11.2%の10年相対生存率だ。膵臓がんが予後の悪いがんであることはよく知られているが、今回の集計でもその厳しさが改めて確認された。

 また三上氏は肺がんについては「腺がんの治療成績が向上した結果、治療成績は乱高下しながらも改善してきた。肺がんは治療法に大きく依存するがんということができる」と総括した。一方の前立腺がんは転移がないI期で発見されれば、10年相対生存率は93.0%だが、転移のあるIV期では37.8%で「転移が予後を決めるがん」と呼んでいる。

待たれる乳がんの休眠機序の解明

 乳がんの治療がほかの消化器がんに比べ長期にわたることは臨床家の間ではよく知られている。2012年には抗がん薬のタモキシフェンの補助療法を5年から10年に延長することで乳がん死のリスクを有意に低下させることができるとしたランダム化比較試験「ATLAS(Adjuvant Tamoxifen:Longer Against Shorter)」の結果が報告され、注目された。このように再発リスクが長期にわたって続くメカニズムとして、乳がん細胞が骨髄中に入り、そこで長期間の休眠に入るというモデルが提唱されている。休眠中の乳がん細胞が何らかのシグナルを受けて覚醒し、再発転移を起こすというものだ。こうした休眠と覚醒のメカニズムを知ることは乳がん治療に大きな革新となると考えられる。2014年には国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野主任分野長の落谷孝広氏らが、乳がんの休眠にエクソソームと特定のマイクロRNAが関与していることを世界に先駆け報告している。

 予後が悪いがんの筆頭である膵臓がんについて、三上氏は「早期発見が重要ながんの筆頭であり、リスク因子の解析が重要」との見解を示した。悪性度の高いがんだが、一方で変異している遺伝子は4種類と限定されているがんでもある。つまり発症リスクを把握し、発症前からモニターすることも不可能ではないがんだ。

 膵臓がんは自覚症状が出た段階で進行しているケースが多い。また喫煙や家族歴などのリスク因子の重複で発症リスクが相乗的に高まることも指摘されている。リスクの事前の評価が確立すると予後を改善にする契機になるかもしれない。その手がかりとなるのが、膵がん患者の5〜10%を占める家族性膵がん患者の研究だ。日本膵臓学会では2014年4月から「家族性膵がん登録制度」を開始しており、こうした発症リスクの解明事業を進めている。

 がん治療の成績には初回治療が占めるウエートは高い。堀田氏は、「今回公表されたデータは10年前の医療のデータを示している。当然、現在の治療成績が高い。この点を、数値を見る市民の皆さんにも強調してほしい」と10年生存率の公開を機に聞いた記者会見で報道陣に注文を付けた。2002年は固形がん治療に分子標的治療薬はなく、確立した薬剤のレジメンがなかった固形がんも多かった。

 がんの10年相対生存率を算出する意義を国立がん研究センターがん対策情報センター長で、全がん協センター事務長も務める若尾文彦氏は、「フォローアップの重要性を検証することに尽きる。このデータを算出することによって、将来は医療資源の活用につなげていきたい」と語った。有効活用が今後の課題だ。

10年生存率を公表した記者会見に臨む「わが国におけるがん登録の整備に関する研究班」の関係者の面々(2016年1月19日、国立がん研究センターで)