乳房再建技術が進歩、温存にこだわる必要がない時代がやってきた。日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会が誕生し、9月には設立記念総会を開催する。単純に乳房の形成外科の学会ができたということにとどまらず、乳がん医療の転機になる可能性がある。


写真1 第1回日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会総会・会長の大慈弥裕之氏(福岡大学医学部形成外科学教室教授)。

 「再発率の高さを考えて、乳房温存術の可能性を追求するのではなく、乳房再建を視野においた、乳房切除術の見直しが始まっている」。こう語るのは、福岡大学医学部整形外科学教室教授の大慈弥(おおじみ)裕之(ひろゆき)氏だ。

 乳房再建といえば、腫瘍組織を乳腺外科医が切除した後になって登場するイメージが強い。乳腺外科医が患者の命を救い、形成外科医が患者のQOLの確保に腕を振るう―。こんな役割が定着していたが、「最近の状況は形成外科医がより乳がん手術の早期から関わることを要請している」と大慈弥氏は語る。乳がん患者の術後の人生は長く、乳房の喪失は医療者が過去に想像してきたよりもずっと大きかったことが認識されてきたためでもある。

 そうした患者の要請に応えるために、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会が誕生、今年9月には大慈弥氏を会長に、福岡市で第1回の総会(設立記念総会)を開催することが決まった(副会長は昭和大学医学部乳腺外科教授の中村清吾氏)。

背景に乳房再建技術の進歩
 第1回大会のテーマは「〜根治性と整容性を両立させる乳腺外科と形成外科の連携〜」。

 「形成外科医だけががんばってもだめ。患者の乳房に最初にメスを入れる乳腺外科医と形成外科医が意見交換しながら、手術の詳細を決めるような医療を実現する必要がある」と大慈弥氏は語る。

 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会のような乳房再建をメーンテーマにした学会が設立されるに至った背景にはいくつかの要因を上げることができる。

 1つは、乳がん患者の増加。日本の乳がん患者の罹患率は40歳前後にピークがあるが、欧米の罹患率は70〜80歳付近にある。欧米と日本人の違いというとそうではなく、いずれ日本でも高齢化しながら、患者が増加していく可能性が大きい。もう1つは、乳がん患者、特に女性の乳がん患者の乳房喪失・変形の苦悩が広く深く認識されるようになったためだ。「乳房喪失、変形は生活の質のみならず、広く人生の質にも影響を及ぼすことになる」と大慈弥氏は話す。

温存手術を選んでも温存されない
 乳がんの手術は1980年初期までは、胸筋合併乳房温存手術(ハルステッド手術)が主流だった。乳がんが腫瘍組織から徐々に全身に広がるというハルステッド理論をベースにした手術で、術後の患者は肋骨が浮き出た状態となり、温泉に行くことを躊躇するなどの苦悩のエピソードが良く知られている。80年代後半からは胸筋を残す胸筋温存切除術が普及したが、それでも乳房喪失の悲哀は患者を苦しめ続けた。90年代に入ると急速に増えてきたのが、乳房温存術で乳がんの患者団体が率先して、その意義を強調したこともあって、現在の乳がん切除術の主流となった。

 しかし、現在乳房温存術は、2つの理由から転機を迎えている。1つは、温存を選択することによって局所再発率の増大がどうしても避けられないこと。そこで、最近では乳房温存率の増加は頭打ち、もしくは減少する方向にあり、全乳腺切除への回帰傾向も表れている。もう1つは、「温存」という言葉から患者が想起するほど、手術前の形を保つことが難しいためだ。つまり、乳房温存術によって乳房の形が変わらないは誤解だ。そこで、出番とされたのが乳房再建術だ。

写真2 乳房再建症例(写真提供:大慈弥氏)。左は術前デザイン、右は術後2年を経過した姿(自家組織移植による)