治療を前提とした場合、形態的検査には限界がある
福田 最近のがんの診断ではご存じのように、形態的な診断に加え形質的な診断が重視されています。がんは遺伝子変異の病気であり、その変異のパターンが予後に大きく影響します。さらに、乳がんはFisher先生が指摘されたように、全身性の病気です。全身に潜在する腫瘍細胞の制御が鍵を握っており、予後に対しては局所制御よりも全身療法が圧倒的なパワーを持っています。ですから、治療法を選択するためには、乳がんの性格を知る必要があります。 

 術後の治療の選択では、遺伝子プロファイルを背景にしたintrinsic typeの分類が重要ですが、マンモグラフィは形態的診断しかできません。さらに、超音波診断(US)やMRI検査などの乳がんの画像診断モダリティーも飛躍的な進歩を遂げてきました。乳がん診療におけるマンモグラフィの位置づけが変化してくるのも当然です。

 確かにマンモグラフィは乳がんの画像診断の基本ですが、その最大の目的は疑わしい病変をピックアップすることにあります。確定診断も遺伝子変異を背景にしたがんの性格診断もできません。患者の予後を改善するために、どのような治療法を選択したら良いか。そこには性質の診断が重要であって、形態は治療のメーンではない。マンモグラフィは形態診断の最たるものです。

 ピックアップする別の手技が出てくれば、マンモグラフィは必要なくなります。しかし今のところ、マンモグラフィのほかに確実にピックアップする方法がないのです。

―形態検査だから、その効能と限界の見極めが大切ですね。

福田 病理検査を考えてみれば分かります。いまは形態検査が主なので、経験豊かな人が診断する。マンモグラフィも超音波検査も同じです。ですから、問われるべきはマンモグラフィや超音波検査でピックアップしたものをさらにどのような検査で仕分けするかということです。

 検診には公的な対策型検診と人間ドックのような任意型検診があります。対策型検診では死亡率減少効果が証明される必要があります。この死亡率減少効果が証明されている唯一の方法がマンモグラフィ検診なのです。

写真背後のキルトはインターナショナルキルトウィークより同センターに寄贈されたもの。

超音波検査の評価が重要な節目
―形態検査に留まる話なのですが、マンモグラフィで見つからないが、超音波検査で見つかったという症例も珍しくないようです。超音波検査の導入が必要という声があります。

福田 検査法には向き不向きがあります。乳腺の密度が高いとマンモグラフィではがんの発見が困難になります。若年ほどその傾向が強くなりますので、そうした課題があります。現在、国家プロジェクトとして40歳代の超音波検査の有用性を検討するJ−START事業(研究リーダー:東北大学教授の大内憲明氏)が行われています。超音波検査とマンモグラフィの併用の有効性をマンモグラフィ単独検査の場合と比較して、検証することを目的にしています。2年後に結果が出ると思われますので、これが日本の乳がん検診の節目になることは間違いないでしょう。

 J−START事業が重要だとする理由の1つは、少なくとも40歳代に関してマンモグラフィ検診や超音波検診が、どれぐらい効果があるかが分かることです。その結果をもとに個別の状況に当てはめることもできます。個別にしたら、年齢をもう少し下に下ろしたり、上に上げたりしてもいいわけです。対策型検診ではこうなんだ、このようなデータがあるから、30歳代のこういうグループに関しては、超音波検査は任意型検診に役に立つのではないかという議論ができます。その上で家族歴などを論じられたらいいかなと思います。

―マンモグラフィでも超音波検査でも見つからないがんをMRIで発見できるという報告も増えているようですね。

福田 検診を野放図にやることはもう絶対にいかんわけですよ。いいかげんな検診で、「こうやれば私のところは全部分かるよ」というようなのがよくありますよね。「超音波検査でやればすべて分かる。MRIであれば、痛くもないし、お乳を挟まなくても全部分かるんですよ」なんて宣伝している医療機関もあります。それだけは勘弁してほしいですよね。

 だから、MRIに関しても基準を作って、こういう基準がないと検診してはいけないというガイドラインができました。

 さらに今後、対策型検診を議論するだけでなく、乳がん検診における任意型検診の位置づけや精度管理、検診方法について議論されると思います。そして、それぞれの受診者に合った検診法の選択、つまり乳がん検診の個別化が、議論されていくと考えられます。

 また、乳がん検診には年齢制限の問題があります。現在は40歳以上に推奨していますが、上限は設けていません。日本ではなかなか議論しにくい風土がありますが、近い将来、この推奨年齢の上限も議論する必要があります。検診に使用できる医療資源は限られています。そのため、「年齢の上限を決めて働き盛りに厚くする」、例えば欧米のように「70歳未満で切りましょう」という議論が出てくると思いますし、それはやらなければならないと思っています。