CoDxをめぐる明暗
 このCoDxをめぐって、米国では最近教訓的な事件があった。

 2011年にFDAがベバシズマブの乳がんへの適応を取り消したのである。その理由の1つが、「臨床効果を期待できる症例を選択するためのバイオマーカーがないために個別化医療ができない」というものだった。ベバシズマブについては、最近SNP(1塩基置換多型)が有望なバイオマーカーになるかもしれないとする報告が出てはいるが、精度と再現性が担保されたバイオマーカーがない。このため、使用による医学的な利益が希釈され、全体的にポジティブな結果が出にくいと指摘されている。

 ベバシズマブとは対照的に、CoDxの成功例としてしばしば引きあいに出されるのが、2011年に米国で同時承認された進行性悪性腫瘍(メラノーマ)に対するvemurafenibとコバスBRAF V600E遺伝子変異検査薬だ。BRAF遺伝子にV600E変異を持つ患者を選択し、標準治療であるダカルバジンと比較試験を行ったところ、無増悪生存期間でHR=0.26、全生存期間でHR=0.44という大きな効果が認められた(図3)。

図3● vemurafenibに見る患者選択の効果(BRIM3試験)
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 このvemurafenibとコバスBRAF V600E遺伝子変異検査薬の組み合わせは、業界関係者が異口同音に「ベストプラクティス」と称賛する。この成功は、治療の標的分子と効果予測マーカーがともにBRAF遺伝子であったことが大きな要因だ。そのために、臨床試験にバイオマーカーを併用する手順も比較的容易にできたというのだ。

 製薬企業、あるいは診断薬メーカーにとって、1剤で巨大な市場を持つ薬剤の開発は大きな魅力だ。俗に年商1000億円(米国では10億ドル)を超える薬剤はブロックバスターと呼ばれている。語源は、「街の1ブロックを吹き飛ばす強力な爆弾」だが、このブロックバスターの獲得が多くの製薬企業の研究開発の最大の目標だった。しかし、患者選択を不可避とするがん個別化医療の世界では、ブロックバスター戦略は諦めなければならない。

 製薬企業(と診断薬メーカー)は、新たなメリットを想定することで、「対象患者の減少」という事態を乗り切ろうとしている。新たなメリットとして、ロシュ・ダイアグノスティックスの田澤氏は、(1)開発期間の短縮(2)適切な薬価(3)市場浸透スピードの短縮(4)高市場占有率(5)良好なコンプライアンス―を挙げた。これらを積み重ねて、利益を確保しようという算段だ。

 問題は、こうした利益の源泉が医療保険という公的財源であることだ。

keyword ALK阻害薬とRT−PCR法の相性が悪い

このvemurafenibに続く、成功例とされるのが日本でも同時承認されたクリゾチニブとEML4−ALKキメラ遺伝子の検査薬(「ALK FISH Probe」)だ。しかし、このカップルはvemurafenibでは経験のなかった弱点がある。日本肺癌学会が2011年に作成した「肺癌患者におけるALK遺伝子検査の手引き」では、FISH法による検査の前にRT−PCR法によるEML4−ALK遺伝子検査あるいは免疫組織化学染色(IHC)検査を行うことを推奨している。RT−PCR法は喀痰や気管支洗浄液を検体にでき、FISH法やIHC法に比べ感度も高い。しかし、RT−PCR法は保険償還の対象になっていない。この理由は、EML4−ALKキメラ遺伝子には10種類以上のバリアントがあり、網羅的に検査するPCRプローブを製品化することが困難なためだ。