頭頸部がんのBio−Radiation治療を先導する国立がん研究センター東病院頭頸部内科長の田原信氏。

 「053試験」を推進した国立がん研究センター東病院頭頸部内科長の田原信氏は、「セツキシマブが登場して最も心配しているのは、患者にBRTについてのみ説明し、CRTについては選択肢として紹介しなくなること」とシンポジウムの講演の中で語った。「BRTは有望な治療法だが、現在の標準治療はCRTであり、すぐにBRTに乗り換えるべきではない」。

 標準治療はCRT―。この根拠となっているのが2000年にPignonらが報告したメタアナリシスの結果だ。Pignonは、局所進行頭頸部扁平上皮がんを対象に放射線治療単独と化学療法の上乗せ効果を63の無作為化比較試験の結果を解析している。そこで、放射線治療前に化学療法を行う導入化学療法や放射線治療後に化学療法を行う補助化学療法に比較して、同時併用のCRTが最も優れた治療効果を持つと結論した。これ以降、現在に至るまで、「切除できない進行頭頸部がんに対する標準的治療はCRT」なのである。対するBRTの無作為化比較試験は現在のところ前述のようにBonner試験の1つしかない。

スイスGeneva大学J.Bernier氏は頭頸部がん治療の世界的権威。

 田原氏はCRTとBRTとを比較して、BRTの優れている点を以下のようにまとめた。「BRTはCRTよりも急性期毒性、晩期毒性の発生率が低く、CRTよりも安全な治療といえる」。同シンポジウムに参加したスイスGeneva大学のJacques Bernier氏によると、シスプラチンと放射線療法を併用するCRTでは、毒性のために治療途中で脱落する患者が多く、「3分の1の患者で化学療法、放射線療法のプロトコールの変更を余儀なくされ、これらの患者には不十分な治療になる」という。

 特に深刻なのは晩期毒性で、CRTの3つの臨床試験(RTOG91−11、97−03、99−14)を受けた230名の患者では、晩期毒性のために10%死亡しているという報告もある(J Clin Oncol 2008;26:3582−3589)。

 BRTの晩期毒性の発生の有無は明らかではないが、少なくとも現在までのところ、放射線治療への併用では、治療の完遂率はBRTが90%、シスプラチンが71%、カルボプラチン+5−FUが51%などと報告されており、「セツキシマブによるBRTはコンプライアンスの高い治療である」とBernier氏は語る。

 一方、BRTの弱点はやはり無作為化比較試験がわずかに1つであるという点だ。現在のところ、効果の点では、直接比較した試験はないがCRTとBRTは同等と考えるべきだと同氏はいう。つまりは、エビデンスレベルの比較ではCRTが圧勝だ。そこで田原氏は、「まず高齢者で全身状態がやや悪い患者、腎機能が低下して腎毒性があるシスプラチンが使い難い患者、さらにどうしても抗がん剤に心理的な抵抗感が強い患者などがBRT治療の対象になる」と予想する。

 全生存期間の改善効果はCRTとBRTとの間で際立った差はない(図5)。となれば、エビデンスレベルと使用経験の差を超えて、BRTが普及する決め手はBernier氏が強調するように毒性とそれに起因するコンプライアンスの差ということになるだろう。

 セツキシマブの使用にあたって注意すべき点といえば、ざ瘡様皮疹などの皮膚障害だ。経験したことのない皮疹を懸念する頭頸部がんの専門医は多い。しかし、大腸がんにセツキシマブを使用する消化器外科の分野では、抗EGFR抗体薬の皮膚障害は十分に対処できる毒性と認識されている。したがって、皮膚科や消化器科へのコンサルトが対処の糸口になるはずだ。

図5● BRT、CRT、放射線療法単独に対する上乗せ効果