頭頸部がんの治療では生存期間の改善と機能の温存の両方を追求しなければならない。その分野に抗EGFRモノクローナル抗体薬のセツキシマブが承認された。局所進行がんでは、セツキシマブは放射線療法との併用の形で使用される。これまでの化学放射線療法に生物学的製剤と放射線とを併用するBio−Radiation療法という選択肢が加わることになる。


 呼吸と消化は別々の臓器が担っている。しかし、頭頸部はその空気と食物が交差する場所だ。しかも、発声という重要な働きも担っている。もしこの部位にがんが発生すると、単純に組織を切除するだけでは済まなくなる。東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍センター教授の大上研二氏は、「呼吸、咀嚼・嚥下、発声・構音などの重要な機能が集中しており、根治性と機能温存のバランスを考慮した集学的治療が重要になる」と指摘する。

 2000年度のデータだが、日本人の頭頸部がん死亡数は7048名。頭頸部がんといっても、いくつものがんが含まれており、最も多いのは口腔がんで、それに続くのが、喉頭がん、咽頭がんなど。危険因子として確立しているのは、主に喫煙と飲酒。喫煙率の低下とともに、喉頭がんは減少しているものの、口腔がんと咽頭がんは増加傾向にある。特に、咽頭がんの中の中咽頭がんの日本人患者の4〜5割は子宮頸がんの原因ウイルスであるヒトパピローマウイウルス(HPV)に感染していて、その感染と発症との関わりが注目されている。

治療法の歴史は機能温存追求の歴史
 大上氏が指摘する、頭頸部がん治療における集学的治療の重要性は、その治療法の変遷をながめるとよく分かる。1960年代、70年代は進行がんでは根治が難しく、またQOLの維持もままならなかった。80年代以降、遊離皮弁(血管吻合)移植の導入による根治手術の拡大、機能温存手術手技が確立されて、治療の選択肢が多様化した。この手術の進歩と歩調を合わせるように、化学療法では白金製剤の投入や導入化学療法が登場、さらに放射線療法では、粒子線治療や高精度放射線療法である強度変調放射線治療(IMRT)が実用化し、薬物療法(主にシスプラチン)と放射線療法を組み合わせた化学放射線療法(CRT)も日常的なものになった(図1)。

図1● 頭頸部扁平上皮がんの治療体系

 生存期間の改善と機能温存という複雑な隘路を歩むうちに、多くの治療法が考案され、その組み合わせが検討され続けた歴史ということができる。そこに、モノクローナル抗体製剤であり、腫瘍表面のEGFR(上皮成長因子受容体)標的治療薬であるセツキシマブが登場した。しかも、放射線療法との併用というおまけ付きだ。

 既に5年前から臨床で使用してきた欧州の主要国では、セツキシマブ併用のBio−Radiation療法(BRT)の選択率が増加し続け、CRTと肩を並べている(図2)。

図2● 局所進行頭頸部扁平上皮がんに対する治療法の選択