メディア・ラウンドテーブル

転移性大腸がんに対する個別的治療の可能性
個別的がん治療とアウトカム改善に関する最新情報を報告
 欧米において、近年、大腸(結腸直腸)がんの発症数は減少傾向が認められ(過去15年間で年間〜2%の割合で低下)、早期診断、新規の治療薬、治療法の開発がその要因とされる。しかし、大腸がんは依然としてがん関連死の第2位を占めており、特にstage4すなわち肝臓や肺などに転移の認められる症例では治療法のさらなる開発・進歩が求められている。
 ASCO2012の会期中にChicago市内のホテルで、ヨーロッパの著名な専門医による「転移性大腸がん(mCRC)に対する個別的治療」と題するメディア・ラウンドテーブルが開催された(主催:Merck KGaA)。主な内容は、「個別的がん治療がmCRC患者のアウトカム改善にどのように役立つか」をテーマに、
・患者のアウトカムを予測する臨床、解剖学的、分子マーカーの役割
・個別的治療オプションストラテジー(戦略)開発の重要性
・セツキシマブ(商品名:アービタックス)に関する最新データと個別的がん治療のエビデンスベースに追加すべき情報などについて最新情報が報告された。
ドイツOldenburg病院臨床腫瘍学教授のClaus―Henning Koehne氏。
予後リスクの分類が治療ストラテジーの指針に
 mCRCにおける治療では、ストラテジー(治癒 vs. 緩和)、腫瘍生物学(アグレッシブ vs. 不活性)、EGFR依存性(野生型 vs. 変異型)、患者の4つのSTEPを考慮する必要があるという。

 ドイツOldenburg病院(オーデンブルク)臨床腫瘍学教授のClaus−Henning Koehne氏は、最適な治療アウトカムを得る上での個別的治療オプションとしてmCRCの負荷(burden)を明確化すること(addressing)の重要性について述べた。同氏によると、予後リスクなど臨床的パラメーターが治療方針を決定する上での指針になるいという。この予後リスクはECOG PSや転移部位数などで低リスク、中等度リスク、高リスクの3つに分類される。5−FU+ロイコボリン(LV)併用療法、イリノテカン+オキサプラチン併用療法などの1st−line化学療法ではリスクの低い順で全生存期間(OS)などにおいて良好な成績が認められ、さらに化学療法に分子標的薬セツキシマブを併用したCRYSTALおよびOPUS試験においても、同様な結果が得られている。
 Koehne氏は、予後リスクファクターを用いたCRYSTALおよびOPUS試験の分析結果として、
・予後リスクグループによる分析は、セツキシマブの治療効果の評価に有用である
・中等度および高リスクグループでは、セツキシマブの併用によるベネフィットが最も高い
・臨床では、予後不良のリスクのより高いグループでは、常に最も効果の高い治療を受けるとは限らない
・本分析は、緩和療法を行うmCRC患者において、KRAS野生型症例では化学療法+セツキシマブ併用療法が治療価値の高いことを補強するものである
と述べた。
ベルギーLeuven大学内科学教授のEric Van Cutsem氏。
早期予測因子としての腫瘍縮小の重要性
 ベルギーLeuven大学(ルーベン)内科学教授のEric Van Cutsem氏は、mCRC患者のアウトカムの早期予測因子として、腫瘍縮小などの解剖学的マーカーの重要性を指摘した。

 Cutsem氏によると、腫瘍縮小がもたらす効能として、転移がん切除の機会増加、症状緩和の増進、長期アウトカムの改善が挙げられるという。腫瘍縮小の評価に当たっては、解剖学的マーカー、機能的評価、分子マーカーがある。このうち解剖学的マーカーとなる腫瘍量/体積(tumor volume)や腫瘍負荷(tumor burden)の変化、肝臓限局疾患(LLD)の有無が予測・予後因子として有用となる。機能的評価にはポジトロンCT(PET)が用いられるが、予後および予測的情報としては限界がある。分子マーカーは注目されている分野だが、特異的な治療法のみの適用となる。

 腫瘍縮小、すなわちがん治療効果の評価には、現在、改訂版RECIST(固形がんの治療効果判定基準)ガイドライン(version 1.1)が用いられている。Cutsem氏はこの腫瘍量の評価基準となっているRECISTの不完全性の面をいくつか指摘するとともに、臨床的アウトカムの予測法として、rationally−designed tumor volume algorithm(合理的にデザインされた腫瘍量アルゴリズム)の有用性を挙げた。

 Cutsem氏は、CRYSTALおよびOPUS試験のpooled dataを用いて、RECISTと腫瘍量アルゴリズムとの有用性を比較検討した結果、腫瘍量アルゴリズムは予後予測の点でRECISTよりも優れていること、個別的反応の予測や治療計画に役立つ早期腫瘍反応のモニタリングに重要であることが判明したという。しかし腫瘍量アルゴリズムには、体積測定の評価(endpoint)のさらなる検討の必要性、施設を通じての標準化の不十分性などの限界があり、現段階ではRECISTにとって代わるものでなく、補強(補助)的な評価法として位置付けられるという。Cutsem氏は「これらの解剖学的マーカーは個別的治療法の開発の際に、臨床的、分子的パラメーターと並んで考慮される必要がある」としている。
フランスGeorges Pompidou European病院(パリ)消化器腫瘍学教授のJulien Taieb氏。
KRASはmCRCに対する唯一の予測バイオマーカー
 フランスGeorges Pompidou European病院(パリ)消化器腫瘍学教授のJulien Taieb氏は、個別的治療における分子マーカーのera(時代)について述べた。

 Taieb氏は、分子マーカーには、予後マーカーと予測マーカーとしての二面性があることを指摘。予後マーカーとしては、進行速度の速い高リスク患者の同定、緩和化学療法に適した患者の選定、治療法を問わず全疾患アウトカムとの関連性が挙げられる。一方、予測マーカーとしては、特異的治療法に対する反応率の高い患者の同定、最も効果の高い併用療法の選択に当たってのガイド的役割が挙げられるとした。

 Taieb氏は、CRYSTAL試験におけるKRAS野生型症例での全生存期間(OS)の推移、さらにCRYSTAL、OPUS試験におけるKRAS野生型症例での全生存期間のpooled data分析結果を示しながら、「KRSAは抗EGFR(EGFR阻害)効果に対する重要な予後・予測マーカーである」と述べた(図3)。さらに、分子マーカーの理解による個別化治療は治療効果と耐性の改善に役立つこと、また複数のバイオマーカーが継続的に発見されているが、KRASは日常臨床においてmCRCに対する唯一の予測バイオマーカーである点を強調した。その一方で、このようにKRASの役割を支持するエビデンスが存在するにもかかわらず、現状では全患者がこのルーチン検査を受けていないことを指摘した。