患者選択が必要になる可能性
 分子標的治療薬と放射線照射との併用効果を検証した臨床試験の多くが現在のところ第2相試験が殆どで、エビデンスを構築する第3相試験は少ない。

 分子標的治療薬と放射線との併用療法について、従来の抗がん剤に比べ、分子標的治療薬の作用メカニズムが精妙であるためなのかもしれない。個人的な見解と断った上で西村氏は「放射線照射は細胞のDNAをナタでぶったぎるような治療。一方で、分子標的治療薬の作用は繊細で、破壊力が小さいために、相乗効果が見えにくくなるのではないか」という。

 西日本を主な拠点として活動する臨床試験グループNPO−WJOG(西日本がん研究機構)では、非小細胞肺がんを対象にしたゲフィチニブと放射線療法とを併用する臨床研究を進めている。この試験では、当初EGFR遺伝子変異の有無による患者の選別を行っていなかった。その結果、全体的に治療効果が殆ど確認されなかったものの、長期生存が得られる患者が散見されたために、詳細に検討したところ、そうしたレスポンダーの多くにEGFR遺伝子変異陽性が確認された。そこで、EGFR遺伝子変異陽性患者を選択的に登録した試験を開始した。分子標的治療では、標的遺伝子やバイオマーカーを基に患者選択が推奨される。放射線療法との併用でも、こうした患者選択が重要になる可能性は高いようだ。言い換えると、そこまでしないと、既存の化学療法を凌ぐことができないということかもしれない。

キューバ生まれの抗EGFR薬に注目
 放射線照射と分子標的治療薬の併用を考える上で、現在注目されている抗EGFR抗体薬が、キューバで開発されたという異色の分子標的治療薬のニモツズマブだ。セツキシマブ同様、EGFRに結合するが、結合活性はセツキシマブの10分の1。効果は弱い可能性はあるが、セツキシマブの主要な有害事象である皮膚障害の発症がきわめて少ないという特徴がある。当初、薬物療法単独で第2相臨床試験が行われたが、有効性を確認できなかった。そこで、放射線療法を併用した第2相臨床試験が実施された。

兵庫県立がんセンター呼吸器内科部長の里内美弥子氏。

 日本臨床腫瘍学会のシンポジウムで兵庫県立がんセンター呼吸器内科部長の里内美弥子氏が行った発表によれば、第2相試験は図のようなプロトコルに基づいて37名の患者を対象に国内7カ所で実施した。シスプラチン(CDDP)とビノレルビン(VNR)にニモツズマブ(200mg weekly)に放射線照射(60Gy)を、引き続き地固め療法として、放射線照射を除いた薬物療法を繰り返した。その結果、無増悪生存期間中央値(mPFS)は、14.6カ月、1年全生存率(1年OS)は、87.2%となった(図1、2)。主要評価項目である治療完遂率は良好で、 Grade 3以上の有害事象も少なかった。「第2相試験で症例も限られているが、第3相臨床試験を開始するために十分、有望な結果であると考えている」と里内氏は結論する。