化学放射線療法に、抗がん剤の代わりに分子標的治療薬を使う試みが本格化している。7月に大阪で開催された第10回日本臨床腫瘍学会学術集会では、日本放射線腫瘍学会と共催で、「放射線治療における分子標的治療の可能性」というシンポジウムがあった。既に有望な新薬も登場しているが、一方で分子標的治療薬と放射線療法の併用の結果が凶と出る場合もあり、注意も必要だ。


近畿大学医学部放射線腫瘍学教授・附属病院がんセンター長の西村恭昌氏。

 シンポジウムの企画者の1人で、当日は、司会も務めた近畿大学医学部放射線医学教室・放射線腫瘍学部門教授の西村恭昌氏は、「抗がん剤と放射線照射を併用する化学放射線療法は、既に多くのがんの標準治療となっている。しかし分子標的治療薬と放射線照射との併用効果については、本格的な検討が始まって間もないことから、検証が十分ではない」と語る。分子標的治療薬を使った化学放射線療法への期待と課題を共有することがシンポジウムを企画した意図だという。

 シスプラチン(CDDP)や5−FUなどの既存の抗がん剤と放射線を組み合わせた場合には、相乗効果が認められている。では分子標的治療薬と放射線との併用ではそのような相乗効果を認めることができるか?頭頸部がんに対する上皮成長因子受容体(EGFR)の阻害薬であるセツキシマブと放射線照射の併用効果について、同シンポジウムで基調講演した米国Chicago大学医療センターJohn E.Ultmann教授のEverett E.Vokes氏は、「現在のところ分子標的治療薬と放射線との併用による相乗効果が確認できたとはいえない」と指摘した。

 放射線照射にがん細胞が抵抗性を獲得する場合、EGFRシグナルが関与することが明らかになっており、EGFRに結合しこのシグナル伝達を阻害するセツキシマブやパニツムマブなどの分子標的治療薬は放射線療法と併用する上で有力なパートナーになると期待されている。セツキシマブが臨床研究で先行しており、日本でも頭頸部がんに対する効果効能の追加が申請されている(次ページ別掲記事参照)。しかし、今のところその効果を限定的に捉える声も少なくないのだ。

 頭頸部がんに対して、セツキシマブ+CDDP+5−FUは、CDDP+5−FUに比べて生存期間を改善することが確認された。さらに、セツキシマブ+放射線の併用療法と放射線単独療法とを比較したところ、併用療法が生存期間で単独療法を上回ることも確認されている。そこで、CDDP+放射線療法とセツキシマブ+CDDP+放射線療法の無作為化比較試験が行われたのだが、「生存期間に差がなく、有害事象はセツキシマブで増えるという結果だった」とVolks氏は指摘した。

セツキシマブと放射線療法の併用で頭頸部がんの生存期間を延長
 頭頸部がんに対する抗EGFR抗体セツキシマブと放射線療法を併用した海外第3相臨床試験には、Bonner試験がある。局所進行性の頭頸部がんを対象としたBonner試験1)2)は、セツキシマブ+放射線療法の併用群と放射線療法単独群を比較した試験で、併用群は1年後の局所病勢コントロール期間の中央値(LRC)の中央値が、9.5カ月延長(24.4カ月vs.14.9カ月)、全生存期間(OS)の中央値は約20カ月延長した(49.0カ月vs.29.3カ月)。ハザード比は0.73(p=0.018)だった。併用療法群の主な有害事象(Grade3/4)は、粘膜炎(51.9%)、嚥下障害(26.0%)、放射線皮膚損傷(22.6%)が報告されている。

 国内では、このBornner試験と再発・転移性の頭頸部扁平上皮がんを対象にした第3相臨床試験EXTREME(シスプラチンまたはカルボプラチンに5−FUを併用した標準治療群とそれにセツキシマブを併用した群との比較)、国内で実施した第2相臨床試験の結果をもとにセツキシマブの頭頸部がんへの適応拡大が申請されており、6月26日付けで優先審査品目に指定されている。
1) Bonner JA et al.,Lancet Oncol 2010;11:21−28
2) Bonner JA et al.,New Engl J Med 2006;354:567−78