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 2008年に国立がんセンター中央病院(当時)に在籍していた枝園氏は、1962年6月から2007年2月までに同病院で治療を受けた転移性乳がん患者344名のうち、原発巣の切除手術を受けた160名(47%)と受けなかった184名との全生存期間(OS)を比較し、報告している。それによると、原発巣切除手術を受けた手術群のOSは有意に改善していた(p=0.049)。

 原発巣の切除が予後を改善する理由については明確な研究が乏しいが、腫瘍量を減らすことで薬剤が到達しやすくなる、免疫細胞による攻撃が奏効しやすくなるなどの理由が考えられる。また既存の薬剤が効きにくい乳がん幹細胞が原発巣に多く存在すると仮定した場合、「患者の体内から乳がん幹細胞を減量する」効果も期待できる。問題は、こうした理由付けのいずれもがまだ想像の域を出ないことだ。臨床報告についても、これら報告のすべてが後方視的な研究で前向き試験がないという厳然たる事実がある。当然、手術に適した全身状態の良好な患者が優先的に“手術群”に入っている懸念がある。

 枝園氏らも、前出の国立がんセンター中央病院の症例レビューの中で、転移性乳がんの局所手術の意義について、早急に、前向き臨床試験を実施してその意義を検証すべきと提案している。既に世界で進行した乳がん患者の原発巣を切除して予後の改善が本当に見られるのかを前向きに検証しようという試みが始まっている。主な臨床試験だけで、6つがスタートしているが、その中の1つが日本臨床腫瘍研究グループによるJCOG1017試験だ。

主要評価項目は全生存期間
 JCOG1017試験の正式名称は、「薬物療法非抵抗性Stage4乳癌に対する原発巣切除の意義(原発巣切除なしversusあり)に関するランダム化比較試験」(略称:PRIM−BC)といい、日本臨床腫瘍研究グループが乳がんで実施しているただ1つの臨床研究だ。枝園氏はその研究事務局を担当する(研究代表者はJCOG乳がんグループ代表者の愛知県がんセンター中央病院乳腺科の岩田広治氏)。

 シェーマ(図)に示すように、遠隔転移を有する患者を登録し、初期薬物療法を実施した後で、「PD(病勢進行)ではない」、つまり薬物感受性があると判断された患者を無作為化に2群に分け、1群は薬物療法のみ、もう1群には原発巣切除を実施するというプロトコールで進める。手術の後に初期薬物療法と同じ薬物療法を継続するが、そこでPDとなった場合は、任意の薬物療法が実施される。つまり、主要評価項目はOS。薬物に感受性のある患者を集め、そこに原発巣切除を行うとOSが改善するかどうかを見るという設計だ。

 予定登録数は、初期薬物療法に入る症例数を500例、無作為割付されるのは各群205名ずつで合計410名。登録期間は5年で追跡期間は、登録終了後4年(最終解析)。現在、転移性乳がんの生存期間中央値は3年弱であり、4年とすることで、ほぼ全例が追跡できると事務局では予想している。

 参加施設は、JCOG乳がんグループに参加する30施設(表)。症例の本格的な登録は2011年に始まり、2012年8月現在の登録数は55例と予定登録数の1割ほど。「もし、Stage4の乳がん患者が受診された際は近くのJCOG参加施設に協力していただけるとありがたい。ぜひ日本から新しいエビデンスを世界へ発信しましょう」と枝園氏は語る(登録基準など詳細はこちら)。

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