さらに見逃せないのが治療の結果だ。術後治療や再発治療がホルモン受容体やHER2の検査結果をもとに選択されている医所、治療感受性のがん細胞が優先的に消失し、感受性のないがん細胞が優先集団を形成し、ホルモン受容体やHER2の変化を生じてしまう可能性もある。

 藤田氏は、rebiopsyが必要なケースとして以下の3つを提案している。1つ目は、乳がんの再発なのか、他のがんなのかがはっきりしない場合。2つ目は、HER2検査が導入される前に検査されていた例で、バイオマーカーが不明な場合である。いずれも議論の余地がないと思われるが、もう1つのケースとして藤田氏は、「再発時の治療に対して抵抗性を示す場合やトリプルネガティブタイプ(TN)の再発乳がん」を挙げる。罹患期間が長い乳がんにおいては、time to recurrenceが長い場合には、生物学的な変化や生検手技の異なることも考慮しなければならない。同氏の今回の検討においても、time to recurrenceが長い場合において、ホルモン受容体やHER2の変化する症例が多いと報告されている。またTNの再発乳がんにおいては、rebiopsyによりホルモン受容体やHER2の変化が認められれば、治療の選択肢が増えるため、「このような症例ではrebiopsyを行うことも許容される」と話す。

 rebiopsyは、患者に対して侵襲を及ぼす検査であるため、安易に行うのではなくrebiopsyで利益を被る患者群を選択し施行する必要がある。そこで、多施設で症例を集積し、生物学的多様性の及ばす影響、術後治療や再発治療の影響、生検手技の及ぼす影響(生検の精度等)を考慮して検討していく必要があるといえそうだ。

【宿題5】Stage4乳がんの原発巣の切除に意味はあるか?
―「取れるものは取る」を超える

 進行したStage4乳がんの標準治療は薬物療法だ。しかし、原発巣を切除することで予後が改善するという後方視研究報告が増えてきた。この原発巣切除の意義を検証する前向き臨床試験が日本でも始まっている。

 乳がんの治療では、どの段階まで手術療法を行うかで、外科医と内科医との間で見解が分かれることが少なくない。遠隔転移が見られるような進行した乳がんに対しても、「取れるならば取りたい」という思いに傾斜しがちな外科医に対して、「本来、乳がんは全身病であり、切除が予後を改善するとは限らない」という慎重な姿勢を見せる内科医―。図式的だが、こうしたやりとりが展開される院内カンファレンスも少なくないのではないか。

 Stage4乳がんの原発巣切除は勧められるか―この診問について、日本乳癌学会が定めたガイドライン「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン」(2011年版)では、推奨グレードを控え目ながら肯定的な「C1」とし、「遠隔転移のある乳癌に対する原発巣の外科切除で、長期の局所コントロールを得られる可能性がある。生存期間の延長は不明であるが、細心の注意のもと行うことを考慮してもよい」と解説している。言い換えると、行ってもいいとしているが、生存率の改善に寄与するかどうかは「不明」という立場だ。

JCOG1017試験の研究事務局を務める枝園忠彦氏。国立がん研究センター中央病院のチーフレジデント時代からこの試験に携わってきた。

 岡山大学病院乳腺・内分泌外科助教の枝園忠彦氏は、「現在のところ、Stage4の乳がんで原発巣を切除することで予後が改善するというエビデンスはない」と指摘する。「腫瘍が大きく成長し、出血や潰瘍を制御するために局所を切除すること以外に臨床的意義はない」。あくまで患者のQOLの改善を目的にした治療という位置づけだ。しかしここ数年、原発巣を切除すると生存期間が改善したという報告が増えてきた。

 米国外科学会の治療のデータベースNational Cancer Data Base of the American College of Surgeonには、Stage4乳がんに乳房温存術または乳房切除術を行った9,162例と手術以外の治療を行った6,861例が登録されている。原発巣を完全除去できた症例は、非手術症例に比べ、ハザード比が0.61[95%CI:0.58−0.65]で、手術例の予後が良好という結果だった。