BRCA1/2遺伝子検査体制に欠陥
 HBOCのリスクアセスメントには、BRCA1/2遺伝子の変異を調べる検査を積極的に行う必要がある。ところがここにHBOC医療を推進する陥穽が存在する。実際その検査は米国のベンチャー企業が単独で実施しており、日本からの注文を受けると30万円とかなり高額。リスク評価の必要性を理解した患者でもこの高額な負担に二の足を踏むことが多い。

 韓国では政府が検査費用を負担し、1万円程度の負担で実施し、国民全体でどの程度の保因者が存在するかなど正確なデータを収集している。BRCA1/2遺伝子検査の独占については、ヒトゲノム計画を推進した米国国立衛生研究所(NIH)の所長、Francis Collins氏らも疑義を表明するなど、なお論争の余地が大きい。がんは遺伝子の変異による疾患であり、遺伝子検査の重要性が高い。HBOCは、単純に、限られた人々の問題にとどまらず、今後のがん診療に係る問題を先取りしているともいえるだろう。

基礎データ不足がリスク評価の壁に
 遺伝子検査を実施し、その結果をもとに患者にリスクを説明する―。昭和大学などの一部の医療機関ではHBOCのその体制を整えつつある。しかし、リスク評価の前提となる基礎的なデータが不足していることも事実だ。

 現在の日本ではBRCA1/2遺伝子変異陽性者に対する治療法の選択のベースとなるデータがない。現在のところそうしたデータは海外にある。正確な実態把握がなされないままに混沌した状況のもと、偏った情報が患者や保因者に広まる危険性もある。

 BRCA遺伝子変異陽性者のカウンセリングを行う場合、その保因者が知りたいことは、(1)保因者であることがどのようなリスクになるのか?(2)いつ乳がんや卵巣がんになるのか?(3)どのような予後か?などが想定できるが、これらの疑問に答えるだけの基礎データは十分とはいえない。

亀田総合病院乳腺科で画像診断を専門とする戸崎光宏氏。

 「アジア人の解析では、BRCA遺伝子変異のパターンに人種差がある可能性が指摘されている。韓国人だけではなく、日本人のデータが必要になるはずだ。日本は昭和大学病院や聖路加国際病院などのデータがあるだけで、非常に心もとない状況が続いている」と亀田総合病院乳腺科で画像診断を専門とする戸崎光宏氏は指摘する。

 さらに、同氏は画像診断を専門とする立場から、MRIを重用する必要性を強調する。

 「MRIを使えば、遺伝的なリスクがある患者の乳房や卵巣を高感度でモニターすることが可能になる。日本はMRI保有大国であり、欧米に比べ、検査を比較的安価に受けることができる。HBOCではリスク軽減を目的に卵巣の予防的切除が試みられているが、MRIにより骨盤の画像を定期的にモニターすることによって、卵巣がんの発生を初期に捕捉する方法の有用性も検証されるべき」

 発がんにおける原因遺伝子の探索が今後さらに進めば、BRCA遺伝子以外にもリスク評価を必要とするがんが増えることが予想される。HBOCはそのモデルケースとなるだけに、カウンセリング方法の検討と並行して日本全体を包括するBRCA遺伝子変異の調査、さらにMRIなどの技術を援用したモニタリング方法の確立が緊急の課題といえそうだ。

【宿題3】乳がんの骨転移に新たな選択肢
―ゾレドロン酸かデノスマブか?

東京医科大学教授の河野範男氏。

 がん治療の成績が向上し、担がん状態で長期生存する患者が増えてきた。ところがその罹患期間の長期化に伴い、骨転移を起こす症例が増えている。ビスホン酸であるゾレドロン酸が長く使われてきたが、生物学的製剤のデノスマブが今年になって登場、骨転移対策の選択肢が増えた。これら薬剤を駆使して、患者の骨転移をマネジメントするにはどうしたらよいか。東京医科大学教授の河野範男氏は、日本乳癌学会学術総会で、双方の使い分けのポイントを講演している。