PI3KやmTOR阻害薬の候補は今後も目白押しの状態だ。「今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でも新薬候補が報告されている。これら分子標的治療薬とホルモン療法剤の組み合わせが、進行再発乳がんの治療を大きく変えることになる」と伊藤氏は展望している。

 ホルモン療法から化学療法の切り替えだけではなく、異なった作用機序を持った新しい治療法のパラダイムが生まれたことなるが、一方で同じmTOR阻害薬であるテムシロリムス(IV)とAIのレトロゾールの組み合わせは、第3相試験では有効性を示すことができなかったと報告されている。この試験は無治療患者を対象にしているなど、BOLERO−2試験とは条件が異なるものの、今後は最適な組み合わせを模索することが乳がん治療の宿題となることは確かなようだ。

【宿題2】遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)への対応は?
―遺伝リスク評価の基礎データが不足していることも問題

 BRCA1/2遺伝子の変異による遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)への関心が高まっている。乳がん全体の5〜10%に遺伝的な保因者が存在するという推定もあり、その潜在的な影響力には無視できないものがある。遺伝性のがんという多くの専門家にとっては不慣れな領域だけに、その対応を巡って各医療施設で模索がはじまっている。

昭和大学でカウンセリングを担当する四元淳子氏。

HBOCが注目されてきた理由
 HBOCがにわかに注目されてきた理由は2つあり、1つは乳がん患者そのものの増加。またHBOCの啓発に力を注ぐ中村清吾氏の働きかけが大きく、2年前に昭和大学に赴任したときから、昭和大学で本格的な取り組みが始まった。昭和大学のブレストセンターは2年前に中村氏が来て「HBOCをやる」と宣言、産婦人科で遺伝カウンセリングを担当していた四元淳子氏にも同大学ブレストセンター教授の中村氏から直々に協力要請がかかったという。

 米国NCCN2011年版ガイドラインにはHBOCの診断のためのBRCA検査の対象者として、「60歳未満のトリプルネガティブ(TN)乳がん患者」が加わった。BRCA1変異陽性者の75%以上がTN乳がんであり、TN乳がん患者の15〜20%がBRCA1変異陽性者といわれている。

 昭和大学乳腺科では、2011年1〜2012年5月に乳腺科にて、TN乳がん患者をHBOCの高リスク者としてとらえ、遺伝カウンセリングを実施、同意が得られた患者を対象にBRCA1/2遺伝子検査を実施した。BRCA変異保因者の乳がん患者14名のうち、BRCA1変異陽性者の100.0%、BRCA2変異陽性者の66.7%がTN乳がんだった。BRCA遺伝子変異がある乳がん患者のTN乳がんの頻度は高いことが示された。

 しかも、昭和大学の経験では、TN乳がんの遺伝子変異率に年齢に差がなく、遺伝子検査の対象者の再検討も必要と思われる結果となった。

家系分析の重要性と限界
 家系分析は問診によって行う。

 3世代前まで遡って、3度以内の肉親に乳がん、卵巣がん患者が存在したかどうかを聞きとる。外来で聞きとる問診票に、それを問う欄がある(囲み参照)。

知っている方がいいのか
 この問診票に医師が「あれ!」と思い、「遺伝的な素因がありそうだ」と思うと四元氏の出番になる。四元氏によるカウンセリングは自費診療で、昭和大学では、初回8000円、2回目以降3000円を徴収している。一番大事なのは、医療スタッフが「!」と思ったときに、カウンセリング、遺伝子検査という流れを作っておくことだ。遺伝子検査を「受ける、受けない」は、患者当人の価値観に負うところが大きい。「20%のリスク」といわれても「それだけ」と感じる患者もいれば「そんなに」と恐れる患者もいる。大事なことは「遺伝子検査を受けないと判断した患者が、受けた患者に比べて著しい不利益を被ることがないように、医療スタッフ側が配慮し続けること」だ。遺伝子検査の結果をどのように伝授するかを、オプションを提示する際に明らかにしておく必要がある。

 「知っていいのか」「知らない方がいいのか」は自分のためということではなく、家族のためになるかどうかという観点も大きいようだ。子供に伝えたいと検査を受ける患者もいる。こういう気持ちを大切にしたいと四元氏は話している。