(イラスト◎なかがわみさこ)

 第20回日本乳癌学会学術総会が熊本で開催され、このほど盛会のうちに閉幕した。総会では、研究成果とともに新しい課題が数多く登場した。ここに、将来の日本の乳癌診療に大きな影響を与えるであろう5つのテーマを紹介する。これらは参加した学会員に課せられた宿題であり、同時に新たな乳がん医療の構築に向けた胎動とも成り得るだろう。


【宿題1】進行再発乳がん治療にパラダイムシフト
―ホルモン療法はいつまで行えるか?

 進行再発乳がんの治療では、選択肢があるかぎり、ホルモン療法を継続し、抵抗性となった段階で化学療法に移行することが推奨されてきた(図1)。今年の日本乳癌学会学術総会にも招請されていた米国MD Anderson Cancer CenterのHortobagyi氏が提唱した、いわゆる「Horbagyのアルゴリズム」だ。しかし、ここにパラダイムシフトが起こりつつあると指摘したのが、がん研有明病院乳腺内科部長の伊藤良則氏だ。同氏は、自身が参画した経口mTOR阻害薬エベロリムスの国際臨床試験BOLERO−2の結果を詳細に分析しながら、「早期にmTOR阻害薬などの別の薬剤を組み合わせることによって、進行再発乳がんの生存期間を大幅に改善する新しい道が開かれた」と語った。

 細胞内のシグナル伝達経路の活性化が、腫瘍の増殖や浸潤、転移、薬剤耐性に関わっていることが多くのがんで証明されている。最近、とりわけ注目されているのが、PI3K/Aktシグナル経路で、mTOR阻害薬であるエベロリムスやテムシロリムスはその中核分子mTORの働きを抑えることによって抗腫瘍効果を発揮している。

 乳がんでもエベロリムス単剤が試みられたが、その奏効率は低く、ただでさえ群雄割拠の状態にある進行再発乳がんの分野で頭角を現すことは困難と見なされていた。ところが、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(AI)抵抗性の乳がんに対してタモキシフェンとエベロリムスを併用することによって、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)が改善することがTAMRAD試験(第2相)で報告され、ホルモン剤とmTOR阻害薬の相乗効果に期待が集まった。この効果を実証しようと行われたBOLERO−2試験は、非ステロイド性AIに抵抗性となった724名を対象に行われた、エベロリムス+エキセメスタンとエキセメスタン単独プラセボ併用を比較した国際第3相試験で、日本からは米国の223名に次いで2番目に多い106名が参加している。その結果、108週間を経過した時点の解析で、主要評価項目であるPFSを4.1カ月から11.1カ月へと大幅に併用群が生存期間を改善したことが示された(ハザード比=0.38、p<0.0001、図2)。