世界同時進行の競争で日本は苦戦する
―米国で「G47Δ」を作られて、帰国されて、日本での臨床試験を目指しますね。論文発表が2001年で、文部科学省の「革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進」事業の支援のもと、臨床試験を開始したのは2009年です。この8年間をどうお考えですか。

藤堂 前述のように日本でもトランスレーショナル・リサーチの重要性が認識され、文部科学省や厚生労働省がいろいろな制度を立ち上げています。しかし、8年間は長いと思います。米国では、その前の世代のウイルス療法(「G207」)は、95年に論文が発表され、98年には臨床試験が始まっています。

 日本では臨床試験に移行するまでの審査が非常に慎重ですが、それだけ時間がかかることになります。欧米がすべて良いとはいえませんが、世界同時進行で新技術の開発競争が展開していることを考えると、このままでは日本の苦戦は免れないでしょう。

―医薬品として製品化するには製薬会社のサポートも必須ですが、その辺りの感触はどうでしょうか。

藤堂 やはり利益を確保するためには、時間やコストを計算することが重要になりますので、前例がないプロジェクトでは、そのための計算ができません。原理的に製薬会社もためらわざるを得ません。逆にいうと、成功事例が1つでもあれば、事業化に向けた障害も市場も見えてくることになりますから、製薬会社も判断しやすくなるでしょう。

 こうした研究を治療薬に結び付けるのはやはり資金確保ですね。米国では、政府からの資金以外にも患者団体が資金を集め、画期的な研究に投資する方式が確立しています。その研究がものになるかどうかの目利きの重要性もまた広く認識されています。

―米国ではAmgen社が「γ34.5」と「α47」を欠失させたウイルス「OncoVEX」を臨床開発中のバイオベンチャーBioVex社を2011年に買収しました。Amgen社は多くの分子標的治療薬を開発している製薬会社ですが、元は遺伝子工学によってたんぱく質を量産して医薬品化を図るバイオベンチャーでした。

藤堂 米国では、「G207」の臨床開発が行われましたが、これもベンチャー企業をウイルス学者たちが集まって立ち上げたことが大きいです。ベンチャー企業で開発を進めて、成果が見えたところで、大手製薬が買収するということで、ものになる技術ならば迅速に実用化できます。日本は、一時ブームなった大学発ベンチャーが失速したことが痛手です。

―日本ではまだ患者団体が研究者を支援するというシステムが整備されていません。患者に要望は強い。でも、資金を出すという発想はありませんね。

藤堂 製薬会社にアピールする方法も考えられますが、現在の臨床試験を加速するための資金がとても重要です。そのためには、いま以上に国民自身が研究の支援に参加してほしいと思います。日本では、まだ研究者が事業を進めること自体への抵抗感があるようです。そうすると、研究成果を医療に活かそうとすると、研究者は献身を余儀なくされる。それは正しい姿とは思えませんし、私も帰国してここまで大変だとは思いませんでした(笑)。

―画期的な治療法を生み出すには学際的な知識とスキルが必要であることがよく分かります。藤堂先生は脳外科医として手術もすれば、ウイルス学や免疫学にも明るい。さらに、GCPについても、いまや日本屈指の詳しさです(笑)。

藤堂 1人何役もこなすこと自体、正しい姿ではありません。臨床、教育、研究、トランスレーショナル・リサーチ、そして企業への対応などがありますが、私は臨床研究の専門家であって、事業化は素人です。開発は開発のプロの仕事です。米国がこの分野で先行するのは、資金とマンパワーを確保するシステムが確立しているからです。これが日本にも必要です。