―正常細胞ではアポトーシスを防げないが、腫瘍細胞では増殖し、正常細胞の中ではDNA合成できないが、腫瘍細胞の中ではできる、さらに感染した腫瘍細胞が宿主の免疫システムに発見されやすくなる―。単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)を遺伝子操作してそのようなウイルス「G47Δ」を作成することに成功しました(別掲記事)。

藤堂 がん細胞は正常細胞に比べて活発に増殖し、DNA合成もさかんです。ウイルス療法はそこを攻撃します。さらに私たちの「G47Δ」は、感染したがん細胞が患者の免疫監視機構にも見つけられやすくする働きを加えてあります。がん細胞に特異的に働き、しかも特定の遺伝子経路の活性化に依存しないことから、多くの種類の固形がんに有用だと思います。現在の「G47Δ」は白血病のような造血系の細胞には感染しにくい傾向がありますが、将来は様々な感染域を持ったウイルスが用意され、がんの種類や進展に応じてウイルスを選ぶという時代も来ると確信しています。

 またウイルスは化学療法や放射線療法と組み合わせることも可能です。組み合わせを考えると、ウイルス療法という選択肢が1つ加わることによってがん治療の方法が飛躍的に増えます。治療選択肢が増えることは非常に重要です。

―実際にがん患者の治療に使うウイルスを作成する場合、非臨床で、これは実際に使えるという判断が重要になると思います。先生はそれまでGeorgetown大学で研究されていた組み換えHSV−1の「G207」では治療に不十分と判断し、さらに操作を加え、宿主の免疫監視機構をも利用できる「G47Δ」を作成しています。「G207」が不十分と判断した理由は何ですか。

藤堂 私は脳外科医ですから脳腫瘍の臨床を続けていました。「G207」を用いたウイルス療法の安全性は確かだと感じましたが、現在でも完治が難しいグリオーマの治癒を目指していましたから、その程度の治療効果では患者を治すことができないと直感しました。臨床医の感覚ということなのかもしれません。

◎ 藤堂氏が臨床試験中の「G47Δ」
 口唇に皮疹を作る単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)を遺伝子操作して3種類の遺伝子を欠失もしくは不活化させて作ったがん治療用ウイルス。細胞の自滅を防ぐ遺伝子「γ34.5」を欠失させ、DNA合成に必要な遺伝子「ICP6」を不活化することにより、ウイルスががん細胞でのみ増殖し、がん細胞を破壊する。これら2つの遺伝子を操作したウイルス「G207」は米国で臨床試験が行われた。藤堂氏は「G207」では効果が不十分と判断し、さらに感染細胞が免疫システムから逃れるために必要な遺伝子「α47」を欠失させ、「G47Δ」を作成した。「G207」は正常細胞に感染しても細胞に影響を与えないが、がん細胞に感染するとそれを破壊する。「G47Δ」に感染したがん細胞はさらに、宿主の免疫機構からの攻撃にさらされることになり、抗腫瘍作用が増強されている。