「観察研究に比べ、RCTではがんリスク抑制効果が小さい傾向にあった」と能登氏は言う。今回の結果から導かれた同氏の結論は、「長期介入研究による実証が一層重要になった」というものだ。

慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御研究部門教授の佐谷秀行氏。

大腸がん予防効果を検証中
 観察研究、メタ解析からメトホルミンのがんリスク低減効果がありそうな可能性が出てきた。慶應義塾大学医学部先端医科学研究所教授の佐谷秀行氏は、こうしたメトホルミンの結果を「偶然のエビデンス」と呼ぶ。「メトホルミンの発がんへの影響は、日本よりも欧米で高い関心が持たれている。米国がん学会(AACR)でもメトホルミンによるがんの発がん抑制効果を検討する研究報告が目白押しだった」と語る。

 医学の歴史は偶然が革新を生み出した例にあふれている。問題はこうした知見をどのように効果と安全性を確保しつつ臨床に近づけるかだ。次のマイルストーンは前向き臨床試験ということになるだろう。この先駆けともいえるRCT(盲検化なし)を既に横浜市立大学消化器内科のグループが行い、その結果を2011年に報告している。同グループは、大腸がんを好発するAPCマウスや発がん物質アゾキシメタン投与マウスに大腸がん発生予防効果がメトホルミンにあることを確認した後に臨床試験を着手した。

 結腸直腸がんやポリープの代替指標である異常腺窩巣(aberrant crypt foci:ACF)を有する非糖尿病患者を2群に分け9名にメトホルミン(250mg/日、メトホルミンは最高2250mg/日までの使用が認められている)を投与、対照としたプラセボを14名に投与し、経過を観察した。観察期間は1カ月と短かったものの、がん予防効果を示唆する結果が出た。メトホルミン群では個人のACF個数が8.78±6.45個から5.11±4.99個と有意に減少した(p=0.007)のに対して非投与群では減少が見られなかった。また、がんになりやすさの指標である結腸上皮の増殖性細胞核抗原指数(prolifrating cell nuclear antigen index)は有意に低下した。一方で、正常直皮上皮のアポトーシス指標にはメトホルミン服用の影響は認められなかった(表2、Mol Carcinog.2010;49:662−71)。この報告はメトホルミンのがん予防効果を実証した初めての臨床介入試験の結果だ。

横浜市立大学大学院医学研究科消化器内科/分子消化管内科学医師の日暮琢磨氏。

 同大学院医学研究科の医師、日暮琢磨氏(消化器内科/分子消化管)は、「さらに症例を増やして長期にわたる大腸がん予防効果の実証試験に着手している」と明かす。目標登録数を150例とし、非糖尿病患者でポリ−プの内視鏡切除術を受けた患者を2群に分け、一方にメトホルミンを投与し、残る群にメトホルミンのプラセボ薬を投与し、1年後のポリープ再発率を比較するという(BMC Cancer. 2012 Mar26; 12:118)。