がんと糖尿病―。これまで別の疾患として治療されてきたが、双方の疾患を合併する患者が増加した現在、双方の疾患に同時に対応しなければならないケースも増えてきた。5月の日本糖尿病学会では「糖尿病と癌」のセッションが開催された。同様のプログラムが今年秋の日本癌学会でも企画されている。一方で、糖尿病治療薬のメトホルミンががんのリスクを下げるのではないかと内外で研究が加速している。


国立がん研究センター中央病院総合内科長の大橋健氏。

 国立がん研究センター中央病院に「総合内科」が新設されたのは2010年の10月のことだった。当時、同院では糖尿病などがん以外の疾患を合併したがん患者の治療には積極的ではなかった。「それががん難民を作る一因」と睨んだ当時の理事長、嘉山孝正氏(現山形大学蔵王協議会会長)はさっそくがん患者を診療できる糖尿病専門医探しに着手。その白羽の矢が立ったのが現在の総合内科の科長で、東京大学医学部附属病院に在籍していた大橋健氏だった。

 がん診療の現場に身を置き、1年半を経過した大橋氏は、「糖尿病診療の中でもがんを合併したケースでは、とりわけ応用コースが多い」と感じているという。最も要望が多いのは外科。周術期の血糖の管理をしてほしいというリクエストが最も多い。「外来から1〜2カ月を経過して手術という場合もあれば、3日後に手術ということもある」という。

 さらに制吐薬のステロイドやmTOR阻害薬などのがん化学療法に使われる薬剤の中には血糖を上昇させる副作用を持つものが少なくない。「普通は血糖値が100〜200mg/dLを維持している患者が、抗がん剤を点滴した日には400〜500mg/dLになる。翌日はまたもとに戻ったりするので、ステロイドが入る日には、インスリンを通常の倍にするなどの対応を取る」という。

日本癌学会と日本糖尿病学会が共同声明を準備中
 「がん患者の糖尿病をどう診るか。臨床現場では以前から大きな課題であったわけだが、ここ数年で注目度が増している。その契機となったのが、国立がん研究センターがん検診・予防センターの津金昌一郎氏らが糖尿病患者はがんになりやすいというコホート研究の結果を報告してから」(大橋氏)だ。

 持効型インスリンのグラルギンと発がんのリスクが注目されて以後、国際的にもがんと糖尿病への関心は高まっており、欧州糖尿病学会(EASD)が2009年からシンポジウムを開催、2010年には米国糖尿病協会(ADA)と米国がん協会(ACS)が、合同でコンセンサスリポートをまとめている。日本でも2011年から、日本糖尿病学会と日本癌学会が日本人にやアジア人に関するデータを検討し、「がんと糖尿病」あるいは、「糖尿病治療薬とがん」などのテーマで共同声明を出すべく、現在準備を進めている。

順天堂大学大学院教授・スポートロジーセンター長の河盛隆造氏。(写真◎柚木裕司)

がんと高血糖を結ぶ新パラダイム
 順天堂大学大学院教授の河盛隆造氏は、がんと糖尿病とを結びつける最も重要な要因は「高血糖」にあると考えている。「高血糖による細胞障害、遺伝子変異に対する修復機構の乱れが、がんに罹患するリスクを高めているはず。言い換えると、血糖コントロールが不良な状況が長い患者は、がんリスクが高いことになり、がんを予防するという観点からも糖尿病患者には血糖コントロールを厳格に行う重要性を説くべきだ」。

 同時に同氏は、高血糖状態とがんを結びつけるメカニズムについての知見は十分ではないという。「糖尿病医学にとってもがん医学にとっても高血糖とがんとの関係を証明することが新しいパラダイムとなる」という。この新しいパラダイムの中で注目されている糖尿病の薬がある。メトホルミンだ。

 河盛氏は、「インスリンの効き目が低下して、代償的にインスリンが過剰に血液中に出ている状態が糖尿病の初期の状況であり、その時期を放置しないようにするべきだ。その意味で、メトホルミンは肝や筋でのインスリン作用を高め、インスリン過剰分泌を防ぎ、高血糖を抑える重要な薬」と語る。そのメトホルミンに、がんリスクを下げる働きが見出され、がんの分野からも注目されているのだ。