AACR2012リポート
降圧薬ががんの薬物療法を増強する
 がん細胞を直接攻撃するだけではなく、異常をきたしているがん組織を取り囲む、いわゆる腫瘍微小環境(microenvironment)を正常化させることにより、がんの進展阻止だけではなく、治療アウトカムを高める試みが進んでいる。この分野の研究の第1人者である米Massachusetts総合病院&Harvard大学医学部教授のRakesh K. Jain氏は、プレナリーセッションでその現況を報告した。
 腫瘍微小環境で問題となるのは、血管、リンパ管および細胞外マトリックス(基質)。Jain氏によると、「これらの異常は腫瘍の進展、免疫抑制、転移を推進し、さらにさまざまな治療に対し抵抗性となる」という。
 血管の異常は低酸素(hypoxia)状態をもたらし、ゲノミック的不安定性&腫瘍進展、血管新生、炎症&免疫抑制、治療(放射線、免疫、化学療法)への抵抗、がん幹細胞の表現型の誘導、上皮間葉転換(EMT)&転移、アポトーシス/オートファジー(自食作用)への抵抗、嫌気代謝への転換の原因となる。
 こうした血管異常に対して、血管の正常化が無病生存期間(PFS)および全生存期間(OS)の有意な改善と関連していることや、GBM(多形性神経膠芽細胞腫)患者における抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)治療が腫瘍内血液灌流を増加させて、生存期間を有意に延長したことが報告されている。また、既に血液灌流の途絶えた血管に対して、血管(脈管)周囲のストレス枯渇(激減)により血管開存に至った例もあるという。
 また、リンパ管においても、過形成リンパ管において弁形成異常が認められること、微小環境によりリンパ性機能に障害がもたらされることが明らかになっている。このような血管、リンパ管の異常には脈管周囲の一酸化窒素(NO)の勾配の修復が正常化に有用であるという。
 一方、治療面で障壁となるのは細胞外マトリックス。腫瘍微小環境では1型コラーゲンの増殖が認められ、薬剤分布(分配)を制限しており、この異常の正常化が薬物送達および効果を改善させる。興味深いのは、高血圧治療薬のアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)がこのコラーゲンを激減させるという研究報告。ARBの1つロサンルタンを用いた研究では、同薬が間質性浸透を増加させるとともに、腫瘍増殖の遅延化をもたらせることも報告されている。ARBはアンジオテンシン2受容体を遮断して血管収縮を抑制し、降圧効果を得るが、それ以外にも臓器保護、血管新生阻害などのさまざまな作用があるといわれている。
 日本人研究者が行った難治性かつ致死性の膵管腺がん(PDAC)患者に対する臨床試験では、高血圧を合併する患者にゲムシタビン+ARB/ACE(アンジオテンシン酵素)阻害薬を併用した症例では、他の降圧薬併用あるいは正常血圧患者との比較で、全生存期間(OS)の6カ月延長が認められたことが報告されている。
 このような点を踏まえて、Jain氏は「血管新生阻害薬以外に、正常化を維持するためのより効果のある改善薬が必要となっている」としている。
図● 低酸素状態ががん細胞におよぼす変化