この逆の数字がネガティブな検査結果を得た数字となるが、ネガティブな検査結果を得た個別の相対リスクは図2のように、一般集団とあまり差がないことが示された。卵巣がんを例に取ると、ゲノム型でポジティブな結果が出たのは2%であり、これは生涯において10人のうち1人の割合でがんが発症することになるという。

※プレスカンファレンスの元となった研究論文
Science Translational Medicine, Rapid Publication, 2 April 2012.
“The Predictive Capacity of Personal Genome Sequencing”

 一方、残り98%はネガティブな結果となるが、ただしこれは生涯がんが発症しないという “免罪符” が与えられたことを意味するのではなく、発症リスクはWGSを受けていない一般集団と同レベルであるという。ネガティブな検査結果を得た個人(男性、女性)でのがんの相対リスクを検査前後で比較すると、男性では検査前45%、検査後32−42%、女性では検査前38%、検査後27−36%とあまり差はなかったという。

 ちなみに全24疾患全体のポジティブな検査結果を得た集団分画をみると、冠動脈疾患死、胃食道逆流症(GERD)、慢性疲労症候群、自己免疫性甲状腺疾患、過敏性腸症候群(IBS)などが20%を超えており、中でも男性での冠動脈疾患死は80%と断トツで高率であった。

総合的なリスク評価が大切
 このように、がん領域においては、WGS検査による疾患予測はあまり期待できないことが示されたが、例外として単一遺伝子による家族性腫瘍、例えば膵がんの PALB2遺伝子などに関しては、遺伝子ベースの同定においてWGS検査は極めて価値が高い(有用である)という。WGS検査の、特にがん領域における発症リスク予測能力の限界について、Vogelstein氏は疾患特性が挙げられるという。疾患のベース(基礎)には、遺伝性以外に、非遺伝性、環境性、推計学的(確率論的: stochastic)なものが含まれており、がんの場合には、遺伝性以外のものが、発症・進展に大きく影響(関与)していることが考えられる。

 大腸がんの腫瘍形成(tumorigenesis)の経時的プロセスでは、何らかの原因で遺伝子異常が発生し、小アデノーマ(腺腫)となるまで6年、さらに大アデノーマ、早期がんまで17年、進行がんまでに2年、最終段階の転移がんまでに3年を費やしている(計28年)。

 この事実は、現時点ではWGS検査による疾患リスク予測に期待するよりも、がんの予防、早期診断に比重をおいたほうが好ましいことを意味しているという。

 このような結果から、Vogelstein氏はWGSについて、(1)疾患の強い家族歴を有する個人では極めて価値の高いものとなる(2)残りの大多数の個人では、将来的な健康を確実に予測するクリスタルボール(水晶球)にはならない(3)定期的な検査(検診)やライフスタイルの修正などの通常のリスク管理に対する代用とはならない−と結論づけている。

 さらに公衆衛生の面から、リスク管理の効果は、遺伝的疾患素質をもつサブセットだけではなく、全体的な集団を巻き込むものでなければならないこと、予防および早期診断の効果は、予見可能な将来において、がん死亡を75%以上低減する可能性を有していることを指摘している。 (ライター:頓宮 潤)