ヒトゲノムを解析する、高効率のシークエンス法や情報解析法の開発が進んでいる。問題は、WGS検査結果のもつ臨床的意義(有用性)が現状ではどれくらいのものなのか、ということだ。3月31日から4月4日まで米国シカゴで開催された米国がん研究学会総会(AACR2012)では、その一端を示すプレスカンファレンスが開催され、研究グループを代表して米Johns Hopkins大学Ludwig Center教授のBert Vogelstein氏が報告を行った。


AACR2012の会場風景。スライドに映っているのは会長のJudy E. Ganbor氏

 かつては高額であったこれらの解析費用も現在では大幅なコストダウンが達成されている。例えば個人の全ゲノムシークエンス(全ゲノム配列決定whole genome sequencing: WGS)に要する金額が1,700ドル(約136,000円)〜5,000ドル(約400,000円)までに低下。競争はさらに激化しており、2015年までに1人当たりのWGS を15分で行い、費用は100ドル(約8,000円)を目標として掲げる会社もある。

 WGSデータの解釈において、ヒトは個別的に450万の多様体(variant)を有しており、この全多様体の大部分の機能的意義は未だ判明しておらず、多様体間の潜在的な相互作用は、天文学的数字になるといわれる。臨床面での有用性でみると、一般集団における、WGSの主要疾患の疾病素質(predisposition)に対する予測能力(predictive capacity)はまだ判明していない。

 そこで、この予測能力を評価するために、米Johns Hopkins大学Ludwig Center教授のBert Volgelstin氏らは、 “ゲノム型(genometype:疾患に対し特異的な遺伝リスクの性質を付与するゲノムのセット)”というコンセプト(概念)を採用している。つまり、特異的なゲノム型は(特異的な疾患に対する遺伝リスクの特異的なレベルを付与する集団において)WGSの代用となるという考え方だ。

 今回、同氏らが目をつけたのは欧米での一卵性双生児(monozygotic twin pairs)のレジストリー研究。同一のゲノム型を有する一卵性双生児の一方が、何らかの病気に罹患した場合には、もう片方にも同じ疾患が発症するリスクが高いと考えられる。ゲノム型と主要な24疾患の発症頻度を検討することにより、WGSの疾患リスクの予測能力を評価しようとするものだ。

発がんへのゲノム型の関与は限定的
 同氏らは、スウェーデン、デンマークなどの北欧および米国退役軍人の双生児研究に登録された5万3,666例の双生児ペアを対象に、がん、自己免疫疾患、心血管疾患、尿生殖器疾患、神経学的疾患、肥満関連疾患など24疾患に関するデータを選択し、ゲノム型との関連性を検討した。

 検討に当たり、頻度(度数)および集団に含まれる20のゲノム型を組み合わせた遺伝的リスクを評価するためのコンピュータモデル(最小および最大リスク分布 [確率/度数: distribution] 予測モデル)を開発。これらの分布を活用して、WGSが有用な臨床的情報を提供する能力を評価した。有用な臨床的情報とは、ポジティブな検査結果(10%の疾患リスク)とネガティブな検査結果(一般集団よりもより低いリスク)である。

 その結果、がんのタイプ別にポジティブな検査結果を得た集団分画(fraction of population)は、図1のように乳がん(8%)、前立腺がん(8%)、大腸(結腸直腸)がん(4%)では比較的高率だが10%に満たなかった。肺がん(2%)、胃がん(2%)、卵巣がん(2%)、膵がん(2%)、膀胱がん(2%)、白血病(1%)に至っては極めて低率であった。

※プレスカンファレンスの元となった研究論文
Science Translational Medicine, Rapid Publication, 2 April 2012.
“The Predictive Capacity of Personal Genome Sequencing”