がん細胞の遺伝子解析技術が進展するにつれ、がん細胞の本質を遺伝子変異のパターンから探る動きが活発化している。変異パターンを知ることが治療法の正確な選択につながる事例も報告されており、研究が進展すれば、発生臓器や形態をもとに行われてきたがんの分類も近い将来、大幅な見直しを迫られることになるかもしれない。


谷内田真一氏。「治癒可能な2cm径未満の段階で膵管がんを発見する技術の開発」も同氏の研究目標だ。

 膵神経内分泌腫瘍の1つP−NEC G3と小細胞肺がんが似た遺伝子変異のパターンを持っている―。4月に千葉県で開かれた第112回日本外科学会定期学術集会で、このような発表があった。発表者は、香川大学医学部消化器外科の谷内田真一氏(4月1日より所属は国立がん研究センター研究所)。昨年まで留学していた米国のJohns Hopkins Medical Institutionsとやはり米国のMemorial Sloan−Kettering Cancer Centerとの共同研究の成果だ。

 がん細胞は正常細胞の遺伝子変異を端緒に生じる。変異した遺伝子を調べ、がん細胞の本体に迫る試みは以前から進められてきた。近年、その範囲が拡大し、まったく別のがんと考えられてきたがんが、共通した遺伝子変異パターンを持っている事例が明らかになっている。重要なのは、こうした一連の発見が、生物学的な興味にとどまらず、適切な治療法を選択する上で有力な指標となる可能性があることだ。

P−NECは膵神経内分泌腫瘍の異端児
 膵神経内分泌腫瘍は2010年に、世界保健機関(WHO)によってP−NET G1、P−NET G2、そしてP−NEC G3の3つに分類された。分類の基準になったのは、核分裂像の有無やKi−67指数など、「突き詰めると細胞の増殖性の高いか低いかで分類された」(谷内田氏、表1)。P−NET G1、P−NET G2は予後も比較的良好で、発病の原因となる遺伝子変異も2011年にScience誌に報告されている。一方でP−NEC G3は、予後も膵臓がん並みに悪く、原因と見られる遺伝子変異も明らかになっていなかった。

 P−NEC G3にはまだ謎があった。切除不可能と判断されたP−NEC G3の化学療法には、経験的に小細胞肺がんのレジメンが使われてきたことだ(図1)。

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 一方で、P−NEC G3の研究を進める上で最も大きな障害になっていたのが、患者が非常に少ないこと。P−NET自身が患者の少ない希少がんに分類されるが、その中でもP−NEC G3は極めてまれながんで、論文の多くも単発の症例報告が中心である。「香川大学の経験症例を見ても、P−NET G1やP−NET G2は、年間5例は診るが、P−NEC G3となると10年間に1例、経験するかどうかという程度」と谷内田氏は語る。患者の手術組織をバンクしていたのが、前出の米国の2つの研究所。そこで同氏は、これら研究所の協力を得てP−NEC19例の症例を解析した。

 遺伝子解析に際して谷内田氏は網羅的な解析ではなく、以下の仮説に基づき選択した遺伝子について変異を調べ上げる方法を採用している。P−NEC G3の本体については、(1)一部のP−NETの悪性化したがんではないか、(2)予後の悪さから通常型の膵管がんの亜型ではないか、あるいは以前より小細胞肺がんに類似すると指摘されたことから、(3)小細胞肺がんの原因となる遺伝子変異と同じでないか、これら3グループの遺伝子との異同を検討した。なおP−NEC G3はさらに大細胞型と小細胞型との2種類があり、これらの遺伝子変異を含めて検討した。