例えば、多発性骨髄腫を適応とするボルテゾミブについては、患者が完全寛解または部分寛解に至らない場合にはメーカーがNHSに対してその費用を払い戻すという条件が付けられている。奇妙な仕組みであるが、恐らくメーカーがこれを受け入れなければ非推奨とされていたものと思われ、条件を付けてでも患者がアクセスできる仕組みを残すために国とメーカーが妥協した結果であると考えられる。また、転移性大腸がんで用いるセツキシマブについては価格の16%を払い戻すという実質的な医薬品価格に影響を与える条件となっている(表)。

日本での応用可能性
 日本では医療経済評価を制度に反映する仕組みは確立していない。医薬品については、1992年より新薬の薬価交渉資料に経済的評価の資料の添付が認められるようになっているが、現実には薬価算定に直接使用されたことはなく、提出も少なくなっている9)。その後も、中医協等で費用対効果の反映が指摘されているものの、制度にはなって来なかった。

 日本では、現行の公的医療保険制度のもと保険収載の仕組みや診療報酬点数および薬価算定の仕組みがある。これらは、限られた財源の中で、適切な資源配分を行うための仕組みとして有効であったと考えられる。しかし、今後、ますます技術進歩が進んでいる中では、より費用対効果に優れる技術に資源配分していくという考え方もあり得ると思われる。

 もちろん、日本は50年以上にわたり国民皆保険制度を維持しており、この基本的な考え方を崩すべきではない。今後、出てくる新規医療技術や医薬品等も、従来のものより少しでも有効性、安全性に優れるのであれば、全て保険でカバーすることが理想である。

 一方で、その場合にはこれにより費用が増える分は国民が負担する必要がある。国全体での財政状況が思わしくない昨今、もし国民による費用負担に限度があるとすれば、何らかの形で給付の検討をしなければならないと思われる。その際に、費用が多くかかるからという理由で公的保険では賄わないという考え方よりも、費用対効果の観点から医療費を配分する方法を検討すべきである。

医療経済評価の活用方法
 日本の制度で医療経済評価を活用する方法として、平成22年度の厚生労働科学研究費補助金による研究事業において、医薬品を例として(1)保険収載の可否や範囲の判断(2)新薬の薬価算定(3)既存薬の薬価改定(4)ガイダンスの作成、の4つの方法を挙げている10)。(1)は諸外国で一般に利用されている方法であり、費用対効果に優れるもののみを保険給付の対象とするという考え方である。(2)や(3)は現在の薬価基準制度に応用し、価格設定の仕組みに反映させる方法である。(4)は制度を変えるのではなく、臨床的なガイダンス等の中で費用対効果に優れる方法を推奨するような方法である。どれも利点と課題があり、今後どのような方法で取り組んでいくかは議論が必要である。

 2012年4月には中医協の下に費用対効果評価専門部会が新たに設置され、費用対効果の活用方法や評価手法の課題について議論することになった。このような議論により、日本の社会全体にとって意義のある方法が考案されるよう期待したい。

◎ Profile
福田 敬(ふくだ・たかし)氏

1990年東京大学医学部保健学科卒業、95年同大学院医学系研究科博士課程単位取得退学、同年同大学院医学系研究科保健管理学教室助手。98年博士(保健学)取得。2001年に同大学院薬学研究科医薬経済学客員助教授、07年に医学系研究科公共健康医学専攻准教授、2011年11月より現職。