処方に対費用効果を反映できるか

―がんの化学療法に使う薬剤費が高いという声が増えています。臨床試験の多くは奏効率や生存期間をエンドポイントにして設計されるわけですが、今後は対費用効果もエンドポイントに臨床試験を組めというわけです。

古瀬 究極的にはその通りだと思いますが、具体的にはかなり難しい試験になるのではないかという気もします。臨床試験の場合は、対照となる薬剤やレジメンに比べ、「××カ月生存期間を延長する」という仮説を立てて、プロトコールを作るわけです。そのときに、いくらの対費用効果があるかという仮説を入れ込んだプロトコールができるものか。

 臨床試験というよりも、「1年の生存期間を延長するためのコストはこれだけ、それが国の定めた基準をクリアしなければ保険償還しない」という審査を行う英国のNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence、英国医療技術評価機構)のような組織を設置した方がずっと有効に機能するはずです。

―NICEを研究する医療経済の専門家も日本に登場していますね。

古瀬 もし日本にそうした組織ができれば、製薬会社もそれを睨んだ治験を組まざるを得なくなる。

 例えば、ある薬は患者さんを選択しないで、治験を行ってハザード比は0.80とか0.75で承認されているとします。これまではそういう薬が多かったわけです。しかしこれからは、対費用効果を考えて、ハザード比も0.50とか0.60とか高水準の効果を要求される、そうでないと保険償還はしませんよとなれば、製薬会社は患者を選択して、そうした水準の薬剤を開発しなければとなるはずです。とりわけ今後の分子標的治療薬は、バイオマーカーを使って有効な患者群の選択をきちんと行って、特定の病態に対して大きな効果が確実に得られる薬剤の開発を進める必要があります。

―がんの医療経済の話を突き詰めると分子標的治療の個別化につながるわけですか。

古瀬 がんの化学療法において双方の問題は不可分です。これからは、第1相、第2相からコンセプトの証明(POC)をきちんと行って、ハザード比が0.50とか0.60を目指した開発を進める必要があります。治験で患者の数を絞っての勝負になれば、大きな力の差がなければポジティブな結果にならないわけですからね。ある程度高額な薬剤でも、効果が確実に得られる患者さんのみに使うなら、経済効果が高くなるということでしょう。

―薬剤費をいかに下げるかではなく、治療薬の潜在的な力を最大限に引き出しながら使うにはどうしたら良いかという話ですね。

古瀬 そうすることが必然的に薬剤費を下げていくことになると思います。

今年の診療報酬改定には不満

―話は変わりますが、今年の診療報酬改定をどう評価されていますか。

古瀬 がん全体についてはあまり評価されたとは言えないのではないかと思います。現在、がんの化学療法はどんどん外来に移行していますので、保険委員会としても外来のマネジメント、副作用管理、服薬指導に新設や加算を要望したのです。外来は入院と同じくらい労力がかかりますので、もう少し何とかならないかと思ったのですが、実現しませんでした。

 したがって今後どういう形で要望していくべきか、作戦を練らないといけません。このほど、藤原康弘先生(国立がん研究センター中央病院副院長)が内科系学会社会保険連合(内保連)の悪性腫瘍の委員長になられたので、よく相談していきたいと思っています。