がんの医療費の上昇が社会的にも大きな関心を集めている。医師も医療経済の問題を避けて診療を行いにくくなっている。有効で安全な治療と医療経済は両立するのか。腫瘍内科医としてがん診療の第一線に立つ一方で、日本臨床腫瘍学会の保険委員会の委員長を務める古瀬純司氏に聞いた。 (聞き手:小崎丈太郎=本誌編集長)


―今日はバリバリの臨床家である先生に医療経済のお話を伺おうと思っています。

古瀬 純司(ふるせ・じゅんじ)氏
1984年千葉大学医学部卒業。92年より国立がんセンター東病院(現在国立がん研究センター東病院)に勤務。2001年から米国Thomas Jefferson大学に留学。08年に杏林大学医学部教授に就任。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の肝胆膵グループ代表も務める。
(写真◎清水真帆呂)

古瀬 僕はまったく医療経済の専門家ではないですが、たまたま日本臨床腫瘍学会の保険委員会の委員長を拝命している関係から、最近その方面で発言させてもらえる機会が増えました。

―医師が医療経済について関心を持つべきだと思いますか。

古瀬 絶対必要です。僕が医師になった1984年頃は、コストのことは全く考えず、その場その場で最良の医療を実践することに集中していました。しかし、今では自分の医療にコスト意識が存在しないということは許されないでしょう。日本の医療費は約36.6兆円(2010年度)にのぼり、国の予算の3分の1を使っています。医師の一人ひとりが、治療の無駄をなくす意識で診療に臨む必要があります。

保険委員会の責務は

―日本臨床腫瘍学会の保険委員会はどんな活動に主眼を置いていますか。

古瀬 1つは、2年毎に行われる診療報酬の改定に向けて、学会としての要望を提出することです。海外で標準治療として使用されているのに日本では未承認の薬については、学会員から要望を集めて早期開発、早期承認の要望も出しています。

 ただ、未承認薬の問題については、そんなやり方で良いのか疑問を持っていることも事実です。欧米でエビデンスが確立している薬剤については、適時使えるようなシステムを作るべきだと思っています。全て保険が利くようにしてくれとは言いません。特定機能病院やがん診療連携拠点病院、一定の水準に達しているがん専門病院であれば、臨床開発が難しい希少がんであるとか、欧米で有用性が確立した薬剤に限って使えるというような仕組みにならないかなあと思っています。

 また、最近の病院の多くはDPC(診療群分類別包括制度)に移行しています。新薬の中にはDPCに入れることができなくて、使うと赤字になる事例があります。昨年は胃がんのトラスツズマブなどがありましたが、そのような薬剤をDPCから外してくれるように要望しました。

―確かに最近、新薬が発売されるたびに、「DPCから外してくれ」という要望が出て、それを厚生労働省が認めるというパターンが定着していますね。

古瀬 新薬発売のたびに要望が必要となる現在の仕組みを変えていかないといけない。個々に対応する問題ではないはずです。厚生労働省などもその問題意識は持って、専門家に意見を聴取していますが、なかなか実現しません。おそらく、薬事の審査と保険の担当部署の連携問題が背景にあると思います。