光冨 最近は、期待されていても臨床試験では精彩を欠く結果になる薬剤が多い印象です。その中で機序に不明な点はありますが、不可逆性のHER1、2阻害剤であるアファチニブ(Afatinib、BIBW2992)と大腸がんに使われている抗EGFR抗体のセツキシマブの併用に期待できそうな印象を持っています。 

 さらに第3世代と言われている変異EGFRを選択的に抑制するEGFR−TKIがあります。それが多分、今年から第1相試験に入ると聞いています。それらに対しても耐性が出ると思いますので、いろいろな薬剤をsequentialに使用していくのはどうか。手術や放射線照射を組み合わせることも1つの方法かもしれません。異なった作用機序を持った薬剤を組み合わせて、非常に成功したエイズ治療の歴史に学ぶべきかなと思うことがあります。

治癒の可能性は見えたか
西條 EGFR変異のある肺がんの平均的な生存期間が約30カ月に改善してきました。このような状況を考えると、進行がんに対しても根治にする視野が開けたと思うのですが、そのためには新たな戦略が求められていると思います。大江先生、いかがですか。

大江 今の状況からすると、根治まではまだちょっと距離があるかなという気がします。一時的には効いても耐性が出現します。さらに劇的に奏効する薬が出てくれば、それで解決するのかもしれないですが、我々が何かほかのいろいろなことを考えていかなければいけないのかなと思います。

西條 手術できる症例なんかはどうですかね。

光冨 術後成績として、手術成績はあまり変わらなくても、薬物療法がよくなったために、全体として、そういうEGFR陽性タイプのがん患者さんが長生きするようになりました。ただやっぱり、大江先生が言われたみたいに、治癒と言われると、それはまだ困難です。

 だけど、とても慢性化する症例は増えてきました。僕が診ている患者さんの中にすごい人がいます。1995年に手術をして、開胸時は胸膜播種とリンパ節転移陽性でした。まず7年後のイレッサ発売までもったのもすごかったですけど、そこでイレッサを飲んだら、3年ぐらい効いていて、その後に耐性になりました。別の抗がん剤を使用したり、イレッサに再チャレンジと手をつくしてきたのですが何とか持ちこたえられて、今でも外来に来られています。

 つまり胸膜播種の人が16年も生存している。16年といえば、肺気腫や肝硬変よりも予後が良いわけですよ。いま目指すべきは、肺がんを慢性疾患に持っていくことだと思います。それが、残念ながら、今の薬物療法がまず目指すべき近いゴールかなという気はしますね。

西條 今、最も薬物療法の中でやるべき仕事ということは何でしょうかね。

光冨 僕の趣味もありますけれど、driver mutationに対する画期的な阻害薬を追求することが1つの道です。そのためには、やっぱり主要な遺伝子の変異のデータをしっかり押さえておくことが大切です。切除肺から良質なデータを抽出する。そういう方が再発したときに、それにふさわしい分子標的治療を行えるようになるといいと思います。

 もう1つは薬事の問題になりますが、乳がんでよく見られるHER2遺伝子の変異が見られる肺がん症例があります。このような症例に現在のところ乳がんと胃がんにしか適応がないトラスツズマブが使えるようになってほしい。また、DDR2遺伝子陽性の扁平上皮がんには慢性骨髄性白血病で承認されているダサチニブを使いたいが、現在のシステムでは使えません。こういうほかのがんで承認されている分子標的治療薬については、がん腫として適応外でももう少し規制を緩和してほしいですね。
西條 今は遺伝子異常をもとにがんを臓器横断的に分類するという状況にはありませんが、分子標的治療の本質を考えるとそこは非常に大きな課題ですね。

 いろいろなお話を伺ってまいりました。イレッサの標的であるEGFR変異を筆頭にdriver mutationの発見と、それに対する薬の開発ということで、研究あるいは臨床の方法を従来と異なった方向に持っていくことによって治療成績が大きく向上する可能性が出てきたと思います。先生方には、今後ますます精進していただいて、肺がんの根治率向上に寄与していただければありがたいと思います。どうもありがとうございました。