米国のEGFR検査無用論
西條 現在、日本では肺がん患者さんの全てでEGFR遺伝子は調べられているものですか。

光冨 EGFR変異を調べないで肺がん治療を進めることは難しい情勢になっていると思いますが、いろいろな調査を見ますと100%ではないようで、ここでも均てん化が必要です。腺がんでは検査するけれども扁平上皮がんでは調べないというような医療機関もあるようです。

西條 先生方、セカンドオピニオン外来に来る患者さんは、みなさん検査を受けていますか。

光冨 先週来た患者さんは受けていませんでしたが、半分以上はしてありますね。

西條 ところで、ASCOのガイドラインやNCCNのガイドラインでもそのように書いてあるんですけれども、先日、provisional clinical opinionとかいう変な論文がJournal of Clinical Oncology誌に出ていました。すなわちEGFR−TKIをEGFR変異のある肺がん患者さんに使用することをしぶしぶ認めたような内容です。ガイドラインでもガイダンスでもなく“provisional clinical opinion”という表現に米国のオンコロジストの悔しさがにじみ出ているような気がしました。

 米国の専門家の中には、「EGFR変異の検査そのものが必要ないよ」という意見が結構あると思います。

光冨 そうですか。

西條 米国では治療方針の決定にEGFR変異の検査をしなくてよいと考える肺がんの専門医が多数派であるような気がします。その原因はどこにあるのでしょうか。

光冨 米国でいえば、肺がんのEGFR−TKIはタルセバしかありません。タルセバしかなくて、真偽はともかくタルセバはEGFRの変異がなくても効くことになっています。しかもEGFR変異の頻度も低く、間質性肺障害も少ないとなれば、「投与すれば分かる」と考えているということではないでしょうか。タルセバは2nd line以降で使うことが標準になっていますから、なおさら遺伝子検査を行う意識が希薄なのかもしれません。

大江 1st lineでEGFR−TKIを使おうかと思うと、やはりそれは必須ですよね。ただ、2nd line以降にしか使わないのであれば、今言われたように、タルセバを使えばいいという発想になるのではないですかね。

西條 この考えの違いは、臨床試験をグローバルにしていこうとすると問題になりますね。EGFR変異がある患者は対象症例から除く必要が出てくると思います。

大江 米国内の一般臨床ならばEGFRを調べないという理屈も成り立つのかもしれませんが、やはり臨床試験はそれでは成り立たないと思います。EGFR変異の有無で患者を層別化することは必要です。

分子標的治療の原理
西條 イレッサの作用機構について話をしたいと思います。そもそもEGFRのリン酸化酵素の阻害がなぜ肺がん細胞を殺すことになるのか。その説明として“oncogene addiction”という言葉がよく言われます。まずoncogene addictionというのは、どういうことでしょうか。

光冨 “addiction”とは中毒ですね。非常に強い依存性のことをaddictionと表現しています。以前から提唱されているがんの多段階遺伝子変異説では、遺伝子が段階的に変異し、がんの悪性度も増大するという考えです。すなわち進行がんには多くの遺伝子異常があるので、1つぐらいの機能を阻害しても、ほかの遺伝子異常が代償してびくともしないと信じられてきました。