大江 EGFRの野生型をも抑制はしますけれども、それが奏効率だとか生存期間の改善につながっていない。

光冨 だから、そこまで行くほどの用量に達していないのかなという気もしています。

大江 用量の問題なのか、質的に違うか、そこは全く分かっていませんね。

光冨 臨床試験をすることが難しいとすれば永遠に分からないですね。

西條 最初のバイオマーカーは、いろいろな臨床試験のときにとったサンプルで、ごちゃ混ぜにして議論されていたところはありますね。抗がん剤とEGFR−TKIを併用したときのバイオマーカーというのは、ほとんど役に立たないと思います。大江先生のご指摘はカナダを中心に行われたBR−21試験の成績をもとにされていると思いますが、BR−21試験のバイオマーカーのデータ、特にEGFR変異の成績は、exon19およびexon21の変異の比率が両方合わせてもわずか47%(普通は90%)と極めて低く、信用されていません。また、BR−21試験の成績もその後行われたエルロチニブの成績と大きく違っています。この試験の論文の筆頭著者であるFrances A. Shepherd自身も疑問視しているようです。この点は話し出すと切りがありませんので次の話題に移ります。

副作用の予知は可能だったか
西條 イレッサが発売されると副作用が大きな問題になりました。確かに間質性肺炎患者が絶対数として多かったと思います。発売直後から予想以上に多くの患者に投与されたことも一因でした。治験ではそれほど注目されなかった副作用が出たことについてどう考えればいいのか。

大江 副作用のうち重要なものは、いわゆる間質性肺炎ですね。間質性肺炎があそこまで出るというのは、ちょっと僕は予想できませんでした。確かに治験の段階でも何例か出ているんですけれども、数%に過ぎません。ただ、逆にその数%が出ると、それがかなりの確率で命取りになるということと、それから、あまり用量依存性がなくて、出ない人には全く出ないけれども、出ると非常に危ない副作用ですね。それを治験の段階の、日本で行われた100例だとか、それぐらいの数で正確に把握しようというのは非常に難しいと思います。

 さらに発症率には人種差があって、欧米人に比べて日本人では発症率が高かったという事実もあります。 

西條 そうすると別の問題も浮上します。グローバル試験を行ってできる限りドラッグラグを短縮しようということが新薬開発の主流になっています。多くの場合、被験者のうち日本人を10〜15%含むというと、絶対数にして100〜150名ですね。その数で副作用をきちんと予測できるかどうかという問題が出てきますね。

大江 多分それはできないと思います。その細かい数%出るか出ないか分からない副作用まで確認して、日本で承認しようとすると、人種差まで含めると、日本で数百例から1,000名ぐらいの患者さんに対して投与してみて、それから承認ということになりますね。そうすると先ほど来の承認までの時間、ドラッグラグの問題が拡大していくと思います。それは、もう承認後に検討せざるを得ないのではないかと思いますけどね。ですから、承認後にある程度の人数は全例調査にして、そこで副作用をしっかり見ていくという方法しかないように思います。

西條 新薬の開発過程で、副作用を発出した全症例のデータを製薬会社は、どっと送ってくるでしょう。それが、ものすごく頻回であるとともに結果として問題にならないものが大半ですね。それを繰り返しているとオオカミ少年のような感じになってしまいますね。

大江 ええ。

西條 それで、中に肺炎とかあったときに、それに注目するかどうか、そこのところは非常に難しいところですね。

光冨 そうですね。