ただし、課題もある。伊藤氏のシステムでも改変ウイルス感染によって新たにマイクロRNAのmiR−7の発現が増加することが岡山大学大学院消化器外科学教授の藤原俊義氏らによって報告されている。つまり、現在のところ検出手技のために、CTC本来の性質が変わるジレンマがあるわけだが、伊藤氏らはこのジレンマを解決する手法の開発に目途をつけつつあるという。

 いずれにせよ、どうやらCTCの臨床的意義を議論するためには、検出しているCTCの生物学的な特徴を明らかにした上で研究を進める必要がありそうだ。少なくとも、転移形成能のあるCTCこそががんの臨床を左右することになりそうだ。

仕切り直しに入ったCTC研究
 世界の標準となった「7.5mLの血液に含まれているCTCの個数をがんの予後予測や、奏効性や早期再発の可能性の予測に用いよう」という試みは、残念ながら期待した通りの展開とはなっていない。しかし、CTC一つひとつの特徴をより細かく見極めることによって、がんの性格、転移可能性、治療奏効予測に近づける試みが新たに始まっている。

 精密で安定した解析法が必要になるが、細胞の分析に使われてきたフローサイトメトリーやマイクロアレイには限界があると伊藤氏は指摘する。そこで現在、同氏らは昭和大学腫瘍分子生物研究所准教授の大森亨氏、放射線医学総合研究所・先端遺伝子発現研究センターの安倍真澄氏、荒木良子氏らと共同で微量検体中の新しい遺伝子解析法を開発中だという。

 CTC研究のゴールは“原発巣→CTC→転移巣”の関係を統計学的にではなく、生物学的に明らかにすることにある。CTCと原発巣の関係が明確になれば、化学療法の効果判定や健診の血液検査によって“原発不明がん”を発見することも可能になるはずだ。

 がんの超早期診断にCTC検査が利用できるようになれば、「血管内にはCTCが存在するが精密検査でも、どこにがんがあるのかが発見できない」症例も出てくる可能性もある。「そうなると、心のケアを含めた対応が社会的問題になるかもしれない」。まだ多くの研究手法が発展途上にあるのだが、伊藤氏は今からそこまで見据えているのである。