北は青森から南は沖縄までの全国の乳がん診療機関を結んだ多地点テレビ会議が定期的に続けられている。がん診療の水準の地域間格差の解消を目的にがん診療水準の均てん化が国策として続けられているが、この自発的に生まれた草の根カンファレンスもがん診療の均てん化を目指す姿の1つといえるだろう。


症例に見入る渡辺氏と宮本氏。中央のパソコンの画像を大型テレビモニターに映している。

 1月某日夕方、場所は静岡県浜松市の浜松オンコロジーセンター。1日の業務を終えた院長の渡辺亨氏と薬剤師の宮本康敬氏(がん専門薬剤師)が、テレビ会議システムの調整を進めていた。今日は、同センターが中心になって進めている“第36回たちてんウェブカンファレンス”の開催日だ。

 このカンファレンスは、全国各地の乳がん診療に関わる施設を、パソコン、カメラ、ヘッドセットを使用してインターネットを介して会議を行うWeb会議と呼ばれる方式で進められている。渡辺氏によれば、「大学などの医局の枠にとらわれず、医療現場のスタッフが自由に課題を持ち寄り、討論する場」ということになる。

 開始予定時刻が近づくと、画面の左側の小さなウインドウに医師や看護師らの大小様々な顔が映り始めた。この会議に参加している全国の医療機関が接続し始めたことを意味している。顔の大きさの違いは、設置したカメラとの距離の違いを反映していようだ。自分の机のパソコンのカメラを利用しているのか、医師の顔がウインドウいっぱいに大写しになっているかと思えば、数人がソファーに腰を下ろして、こちらを見入る様子の画面もある。「こんばんは、よろしくおねがいしまーす」「○○先生、お久しぶりです」。しばし、モニターごしの挨拶が飛び交う。

 参加しているのは、北から青森県立中央病院、杏雲堂病院(東京)、東京医科大学八王子医療センター、相原病院(大阪)、相良病院(鹿児島)、宮良クリニック(沖縄)に浜松医療センターを加えた7医療機関だ。

 この日のテーマは2つ。1つは症例の検討、もう1つは2011年の12月にサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で報告され、注目されたBOLERO−2試験に関するレビューをすることだ。

手術か薬物療法か
 この日は宮良クリニック院長の宮良球一郎氏から提供された症例検討から始まった。

 症例は女性の炎症性乳がん患者で37歳。検査ではLuminalB、HER2陽性と判断されたが、抗HER2抗体薬のトラスツズマブで効果が出ない。1カ月前の前回の会議でも提示された症例で、治療法の選択が難しい症例だった。どのように治療をすればよいか、宮良氏はまだ迷っていた。

宮良 前回の会議では、もう一度HER2抗原を調べなおすというアドバイスがありましたので、調べなおしたところFISH法では7.1と強陽性でした。生検でもやはり、Luminal Bでした。EC療法(エピルビシン+シクロホスファミド)では効果があり、1180mgまで使いました。

 細かいやり取りのあと、実際にどのような治療法を選択すべきかというテーマに移ったところで、渡辺氏と参加していた相原病院副院長の相原智彦氏との間で白熱した議論になった。