エベロリムスに加え、血管新生阻害作用を持つスニチニブがpNETの治療薬に加わると予想される。しかし、それらの武器を使いこなすために、医療現場に到達しているpNETの情報そのものが不足している窮状は改善の見通しがたったとは言い難いようだ。

 NETをめぐる診療体制の充実を求める今村氏の主張は、GISTの西田氏のそれと共鳴する。「比較的希な疾患のために、詳しく知らない医師も多い。情報不足と医師からの不適切な診断や指摘で患者も混乱する。NETについて多職種が協力体制をとって専門性の高い医療を進めるための拠点病院を整備すべき時期に来ている」

Part 3 希少がんだからこその利点

 希少がんの診療精度の低下は世界的に大きな問題になりつつある。
 そこで、2011年に世界的な稀な病気に国境を超えて取り組む動きが出てきた。米国国立衛生研究所(NIH)と欧州連合は共同でThe International Rare Disease Consortiumを立ち上げた。2020年までに希な疾患に対して、新しい診断法を確立し、治療法の開発を行うことを目的としている。

 厚生労働省が定めたがん対策推進基本計画の見直しが進んでおり、3月1日に公表された案では、新たに「小児がんをはじめ、肉腫、口腔がんや成人T細胞白血病(ATL)など」の希少がん対策の拡充が、うたわれている。病理診断、リハビリテーションとともに希少がん対策が明記されており、厚生労働省が次世代のがん対策の重要課題として認めたことになる。

 厚生労働省がん対策推進協議会委員の1人で、膵臓がんの患者、医療を支援してきたNPO法人パンキャンジャパンの理事・事務局長の眞島喜幸氏は「希少がん対策についてがん対策推進基本計画に盛り込まれたことは大きな前進だと思うが、それが具体的にどのように政策に反映していくのかは、計画を策定した後の課題」と語っている。

 医師の側からも希少がん対策にシステムの点から改革を目指す動きも始まっている。

 昨年末、西田氏らGISTの専門家が中心となって、特定非営利活動法人・希少腫瘍研究会を発足した(英語名称はThe Research Group for Rare Neoplasms of Japan:Gran−Japan)。目的は「EBMのほとんどない稀な腫瘍の診断並びに治療の開発と普及を目的にし、広く情報を公開し、公正、中立な運営を継続的に行う」(設立趣意書抜粋)ためだ。患者が少なく、専門医も少なく
、情報も少なく、エビデンスも少ない。こうした疾患に対する有効な医療を構築するために、研究会の開催などを通じた情報提供や研究そのものへの補助を事業に挙げている。

写真10 参考書籍『膵・消化管神経内分泌腫瘍「NET」診断・治療・実践マニュアル』(総合医学社、4,500円+税)。今村氏が総監修を務めている。現在のところpNETを網羅的に解説した貴重な書籍。

5大がんも希少がんの集まり
 これまで希少がんを特殊ながんと捉えることが多かった。胃がん、肺がん、乳がん、大腸がん、肝細胞がんの5大がんも原因遺伝子が明らかになれば、細かく分類される可能性がある。肺がんの腺がん患者で発見されたEML4−ALK遺伝子は、患者全体の10〜20%にしか存在しない。さらに、国立がん研究センターやがん研有明病院などが独自の融合遺伝子を肺がんの原因遺伝子として発見している。同じがんであっても、治療標的が異なれば、異なったがんと診断し、それに応じた治療が追求されることになる。

 HER2強陽性の乳がんの第1選択薬であるトラスツズマブが、2011年に日本国内で胃がんへの効能が追加された。トラスツズマブの標的であるHER2遺伝子を過剰発現している胃がんは、胃がん全体の20%ほどだ。遺伝子発現をもとに胃がんの再分類がさらに進む可能性もある。そうなれば「胃がんも希少がんの集まりということになる」と西田氏は語る。

 「医療資源は限られている。高額な薬剤を間違って使用することは許されず、正確な診断は医療経済にもプラスに働くはず。希少がん対策は将来の日本のがん医療のモデルケースにしなければならない」と同氏は語っている。