写真7 東北大学大学院医学系研究科准教授の江川新一氏。

 Jobs氏の場合は腫瘍の切除術の最中に肝臓の転移が見つかっているが、pNETでは肝臓への転移が予後を決定づける要因になる。最初の発見時に治療を受けていれば異なった転帰となった可能性が高い。膵臓や消化管のNETの外科切除を数多く手がける東北大学大学院医学系研究科の消化器外科学分野准教授の江川新一氏は、自院の経験から「Stage1から3までの早期に手術して病巣を除去できれば、良好な成績が期待できる。しかし進行して肝臓の転移が起きた後では治療は難しいものになる。肝部分切除を実施しても残肝再発率は100%であり、取りきることは困難」と語る。できる限り早期に正確な診断を下し、適切な治療を行うことで実質的に治癒に持ち込める患者の数は増えることになる。

 やはりこの日のフォーラムの講師を務め、最近「NET診療ガイドライン」をとりまとめた京都大学名誉教授の今村正之氏(関西電力病院学術顧問)はこう指摘する。

写真9 京都大学名誉教授で関西電力病院顧問の今村正之氏。

 「NETに関する知識が医療者の側に不足している(後述)。せっかく、画像検査で見つかっても、腫瘍径が1cmだと経過観察して積極的な治療をしないケースがある。3〜4cmくらいまで何もしない。我々の経験では、1cmから2cmに増大する間に肝転移が起こる。見つけたらすぐに対応する必要がある」

 NETを良性とする誤解が医療界に存在している。皮肉なことに、その誤解の種をまいたのは、この疾患を1907年に最初に報告したSiegfried Oberndorfer氏自身だ。NETはかつてカルチノイドと呼ばれてきた。すなわち、“がんのようなもの”という意味だが、そう命名したのがOberndorfer氏だった。世界保健機関(WHO)がNETを悪性と定義し直したのは、2010年になってからだ。「100年も経過すると医療の世界に良性であるという誤解が定着してしまっている。今後知識が普及して、そのような経過観察ケースが減ることを期待している」と今村氏は言う。

 カルチノイドの亡霊に苦しめられたのは患者も同様だ。pNET患者で、この日の患者フォーラムの会長を務めた白鳥優子氏は、「カルチノイドなのかpNETなのか、どっちが自分の病気なのか悩んだ。pNETと病名が決まってむしろほっとした」と話した。

写真4(左) 第1回NET患者フォーラムin東京の大会長を務めた白鳥優子氏。
写真5(右) 膵臓がんの患者団体のNPO法人パンキャンジャパンの眞島善幸氏。同じ膵臓の腫瘍という観点から膵神経内分泌腫瘍(pNET)の患者の支援にも着手した。