見直しが進むがん対策推進基本計画に、患者5,000人以下の“希少がん”医療の充実が盛り込まれることになった。医療財源のひっ迫、医師の不足にあえぐ医療に新たな課題と見ることができる。しかし、日本の医療資源をいかに効率的に使えるシステムを作るかは希少がんに限ったテーマではない。原因遺伝子によってがん自体の分類が精すれば、大きながんも希少がんの集まりと見なされる日が来るかもしれない。むしろ、新しいがん医療を構築するためのモデルケースとなる可能性がある。


Part 1 【GIST】 高価な薬剤を誤用する危険

 消化管間質腫瘍GIST―。10万人に1人という発生頻度で、消化器科の医師でも日常診療で遭遇する確率が低い粘膜下腫瘍、いわゆる希少がんの1種だ。発生部位は胃、小腸、直腸などの消化管に多く、治療方法はまず手術。手術ができない場合、または再発転移した場合はイマチニブ、スニチニブの分子標的治療薬を処方する。放射線治療や従来の化学療法には効果がないことも大きな特徴だ。転移するときは、リンパ節転移は少ないが、肝転移や腹膜播種が多い。さらに転移する臓器の60〜80%は肝臓だ。

 多くの場合が健診などの偶然による。無症状である場合が多く、症状があったとしても出血、腹痛、腫瘤触知など非典型的なものが普通だ。最終診断は、生検や手術標本の病理組織診断を経て行われる。KIT遺伝子とPDGFRA(血小板由来増殖因子受容体α)の遺伝子が原因となることから、KITの免疫染色やKIT染色陰性の場合は遺伝子の検索を行う。粘膜下腫瘍の治療に経験を積んだ医師や病理医でないと最終的な診断がつきにくい。

 希少がんの場合、症例を経験した医師が少なく、誤った診断を下されるケースが多い。結果的に誤った治療を行うことになる。その代表例がGISTだ。

写真2 GIST医療の第一人者、大阪警察病院副院長の西田俊朗氏。

高価な薬剤を無駄に使用
 「GISTの手術自体は難しいものではない」と語るのは、大阪警察病院(大阪市天王寺区)副院長の西田俊朗氏。同病院は、GISTの診療経験では日本屈指の医療機関。西田氏は同院にあって積極的にGISTの医療にあたってきた医師だ。まずは外科手術がGIST治療の常道であるが、圧排性に増殖するために「思いのほか、ころっと取れてしまうことがある」という。

 胃がんや大腸がんに比べ、GISTが注目されてこなかった原因は発生頻度の低さばかりではなく、専門としない外科医でも病巣を切除することが比較的容易にできてしまうという側面もあった。発生頻度も低く、とりあえず手術ができてしまうことから、GIST医療をめぐる誤診の問題は顕在化しにくい状況にあったともいえる。

 “GISTの誤診”には2つのタイプがある。

 1つはGISTではないのにGISTと診断されるケース。西田氏のもとにはセカンドオピニオンを求めてGIST患者が訪れるが「実はGISTではないというケースが目につく」という。GISTであると誤診されれば、本来必要とする標準治療を受けることができ、無用で無効な治療を受けなくて済んだかも知れない。しかも治療に用いられる分子標的治療薬などは非常に高価だ。患者は適正な治療機会とともに経済的な損失をも被ることになる。

 新薬の治験に、GISTではないのにGISTと誤診された症例が登録されそうになったこともあった。治験に参加する医療機関といえば、GISTの症例経験が比較的豊富なところが多いはずだが、ある程度経験を積んだ医療機関でも誤診のリスクとは無縁でいられないようだ。