ハザード比0.357、P<0.001と両群間に大差を認め“イレッサ”群の勝ちであった。この報告は200例の患者登録があり、PFSのイベント数が140の時点での中間解析結果であった。中間解析結果に大差を認めたため、独立データモニター委員会(IDMC)による試験中止報告が行われた。WJTOG試験は、当初術後再発のEGFR変異(+)例のみを対象としていたため症例登録数が遅延していたが、登録開始4カ月後に進行肺がんの初回治療例をも登録可とした。また、EGFR変異検出方法も外注可とした。これは検査、成績が安定化してきたこと、及び陽性例を対象とした試験のため検出感度の問題を考慮する必要がないことによる。NEJとほぼ同時期に始まった研究であり、加えてWJTOGの大規模な組織を背景にした研究にも拘わらず、2009年6月13日の時点で登録されランダム化された症例数は176名、イベント数79とNEJ試験に対し、完全に遅れをとった。

 しかし、PIである光冨徹哉博士、WJOGデータセンター中村慎一郎博士らのその後の対応は素早かった。当初の登録予定数は200例としていた。これはハザード比(“イレッサ”群/化学療法群)を0.56と仮定。検出力90%以上を確保するのに十分な症例数(検出力80%で1群54名、90%で1群73名)であった。ハザード比が0.64でも80%以上、0.70でも70%弱の検出数を保つことができる数字であった。ASCO直後の2009年7月1日に行われた調整委員会で議論された内容に基づくプロトコルの改訂は以下の通りであり、改訂プロトコルをそのまま引用する。

Lancet、NEJMへの投稿
 筆者が西日本がん研究機構(WJOG)の顧問に就任したのは、2009年11月1日であったため、この議論には関わっていない。外部情報に基づくプロトコル改訂はあっても良いと思うが、IPASS試験、NEJ002試験がWJTOG3405試験とほぼ同時期に開始されていることを考えると、今後は最初からその可能性をプロトコルに記載しておく必要がある。そうでなければ都合のいいように当事者がプロトコルを改変したという批判を受けることもあり得るためだ。この変更が8月28日効果安全性評価委員会、9月14日理事会で承認された。この決定に基づき6月30日時点でデータロックをし、統計解析を行った結果、“イレッサ群”PFSのプラチナダブレット群に対するハザード比は0.49(p<0.001)でWJTOG3405試験でも完全に“イレッサ群”の勝ちであった(前ページ図9)。

 科学的、医学的に“イレッサ”の有効性がEGFR変異(+)の肺がんに対し完全に証明された2つの臨床試験であり、国際的にも学会で高い評価を受けた。研究者として興味があったのはこれらの研究結果がどのような雑誌に掲載されるかであった。WJTOG3405試験はデータセンターの中村慎一郎博士とPIである光冨徹哉博士の超人的努力によってNEJグループよりも先に論文を完成し、10月8日にLancet誌(インパクトファクター30.758)に投稿した。

 しかし、残念ながらLancet Fast track(10月13日)及び、Lancet regular track(10月19日)にrejectされた。しかしLancet Oncology誌(インパクトファクター14.470)のFast trackであれば考えると返事を得るとともに43件のコメントが送られてきた(10月26日)。光冨博士はそれらに対し、的確かつ迅速に対応し、編集部と2回のやりとりの後に12月1日にLancet Oncology電子版に掲載された。

 一方、NEJ002試験の論文はNew Engl J Med誌(インパクトファクター50.017)に投稿された。この原稿は筆者のところへ審査目的で送られてきた。すなわち光冨博士がLancet Oncology誌とやりとりしている時期であった。国内からの研究発表ではこれ以上ないstraight forwardな研究であったため、ぜひともNew Engl J Med誌にacceptさせたいものと思った。幸い筆者にはどのような観点からも利益相反(COI)は存在しなかった。

 あえて言えば、イレッサ訴訟の国側証人というCOIがあるという指摘があるかもしれないが、全くのボランティアでもあり問題はないと思った。レフェリーは確か4名でうち1名は統計家であった。WJTOGの結果は9月に既にESMO/ECCO会議で報告済みであったためAssociate Editor、レフェリーともその存在を知っているに違いないことを念頭にレビューコメントを書いて送った。この時点で筆者はまだWJTOGの論文化についての情報を得ていなかった。

 レビューコメントのポイントは3点あった。(1)この研究は肺がん患者に対し薬理遺伝学的特徴に基づき患者選択を行った、世界で最初の研究である。(2)この研究成果は2009年ASCO会議で発表されている。(3)光冨博士のWJTOGは術後再発例を含んでいるが、NEJ試験は純粋に進行肺がんのみを対象とした研究である。その他細かい指摘については記憶にもないし、コンピューターからは既に消去されている。このコメントを送り比較的早い時期に他のレフェリーの意見と共にAssociate Editorのrecommendationが送られてきた。他の雑誌では、審査の途中で他の審査委員のコメントを送ってくるようなことはあまりないので正直驚いた。